2013 Fiscal Year Research-status Report
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25580048
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
海老塚 耕一 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (60407822)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マテリアル / スタッフ / 物質から素材へ / 非晴眼者の美術の可能性 / 晴眼者の美術の可能性 / 触れることで見る |
Research Abstract |
「視覚障害者を含めたすべての人に開かれた作品の構築」の研究を進めていく上で,何よりも必要なことは素材における研究であった。それは作品制作を続けていく長い時間、常に纏わり付く、欠かすことのできない基礎的な研究でもある。マテリアルからスタッフへという思考のなかでこの研究は継続している。 さて,初年度の素材に関する研究は、「木」とした。それも日本に多く生え、日本の人々の生活と昔から慣れ親しんだ「木」を取り上げた。「欅」「公孫樹」「栗」「栃」「楠」「桂」「櫤」「楓」「樅」「椨」「杉」などの多様な木である。多くは広葉樹であり、それはこれらの木が家具やまな板、仏像、建築などに多く使用されていると言うことから、日本人が古くから持つ素材に対する「熱」の要因を探りたかったと言うこともある。 まずそれらの木の持つ特性の探究から始めた。「匂い」「味」「重量」「固い/やわらかい」「肌理」「目のあり方」「道具との関係性」、それらのことをひとつひとつ確かめながら、「触れる」と言うことをキーワードに、作品をまさに作ると言う意思のなかで、すでに歴史の折は染みついたマテリアルからの逃走を試み、スタッフへの移行をそれらの多種多様な木とともに始めた。 その折、「木」以外の素材との融合と言うことも踏まえて、「鉄粉」からつくる錆の素材としての有効性、表現力を確かめるために、岩手県のN2スタジオで『風の余波』という個展を『鉄分』を主として作り上げた作品で行った。そこでの成果を踏まえて、神奈川県のカスヤの森現代美術館で「木」を主体とした個展を開き、ここでは「木と」「鉄粉によりこしらえた錆」とを融合した作品を、9点展示した。さらに岐阜盲学校に作品を持ち込み、小学生数人にその作品を触れていき、どのような感想、何を触れることによってかんじゅするのかかといった研究授業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ふたつの展覧会において、視覚障害者に対しても、晴眼者に対しても開かれた作品の制作と展示は行えた。さらに岐阜盲学校においても目の不自由な児童たちに作品に触れていただくことで、触れて作品を理解することの意味と問題をはっきりと手にすることができた。しかし、問題点もそれ故に多く生まれ、大きな課題がこの研究にのしかかることとなった。 其れは岐阜盲学校の副校長先生のお言葉からなのだが、彼は「盲人には美術はありません」というものだった。この言葉には多くの説明があったのだが、現在の美術館等の視覚障害者に対す売るあり方では、何を理解したら良いのか分からないというものだった。ここから今後の研究の推進法昨冬がはっきりした。
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Strategy for Future Research Activity |
岐阜盲学校の副校長先生のお話を聞いて、研究がひとつ深い迷路に入り込んだようだったが、これからの課題を見つけることはできた。晴眼者にとっての美術をそのまま視覚障害者に向けて発信してはいけないと言うことである。感じるものが異なっても構わないと言うことから、両者の間に広がる溝をはっきり自覚した上で、視覚障害者に対する美術のあり方を構築しなければならないと言うことである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
晴眼者にとっての美術をそのまま視覚障害者に向けて発信してはいけないと言うこと を認識した。感じるものが異なっても構わないと言うことから、両者の間に広がる溝をはっきり自覚した上で、視覚障害者に対する美術のあり方を構築しなければならないと言うことである。 そのために視覚障害者のための触察本、美術館の先進国であるフランス、イタリアに現状を認識するために調査に行く。同時に、前年度の素材研究と、作品制作を進めていく。 一年を通じて素材研究と誠策は進めていく。海外調査に関しては、時間がゆったり取れる時期を見計らって、渡欧する。
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