2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25580052
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐倉 由泰 東北大学, 文学研究科, 教授 (70215680)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 都鄙観念 / 境界認識 / 中心 / 普遍 / 吏の漢学 / 類書の漢学 / 日本文学史 / 日本文化史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の都鄙観念のしくみと史的展開を考究することで、日本の文学史、文化史の本質を捉える新たな視点を確立しようとするものである。三年間の研究期間に、古代から近世前期に至る文学テキストの記述を調査し検討することを通して、日本の文学、文化の形を決定づけてきた都鄙観念について、(A)その基本的なしくみ、(B)その史的展開、(C)この観念をめぐって浮かび上がる文学史、文化史にかかわる問題を明らかにすることをめざす。 初年度の平成25年度は、主に上記の課題の(A)に取り組み、都鄙観念のしくみを考察したが、平成26年度は、その成果を基盤にし、中世の軍記物語、和歌、紀行文、類書をはじめとする多様な文学テキストを検討対象として、課題の(B)の日本の都鄙観念の史的展開について考察を進めた。特に、京という中心に加え、鎌倉という新たな中心が出現して以降、中心が複数化し多元化する中で、文学、文化がいかに展開したのかということに注目したが、そうした考究の中で、日本式の漢学(吏の漢学、類書の漢学)が、古代以来、都鄙観念に拘束されずに地域の別を越えて広範に流通し、室町時代には、日本の知の新たな編成を主導する重要な役割を担ったことを明らかにすることができた。その成果は、平成26年度中に発表した、後掲の二つの雑誌論文に示した。さらに、平成26年11月8日に、弘前大学で開催された全国大学国語国文学会第110回大会のシンポジウム「「北」のものがたり―「北」の思考・心性の北方的なるもの―」において司会・コーディネーターを務めたことにかかわる調査、研究を通して、日本の内を都と鄙に区分する都鄙観念と、日本を内と外に区分する境界認識との類同と相違に着目し、両者の関係の相補性と交錯について考察を深められたことは、(B)だけではなく、(A)と(C)の課題の本質にもかかわるきわめて大きな成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の概要」で述べたとおり、日本の都鄙観念の史的展開を考えるという課題において重要な成果を挙げることができ、都鄙観念のしくみについての考究も大きく深められ、この観念をめぐる日本文学史上、日本文化史上の問題の発見、考察においても、着実な進展が見られたことから、順調に研究が進んでいると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度、平成26年度の順調な研究の進展とそれによる成果を基盤にして、平成27年度も、当初の計画どおりに考究を行う予定である。 本研究の最終年度にふさわしく、これまでの考究の成果を論文等にまとめて公表することはもとより、「研究実績の概要」に挙げた(B)の課題にさらに取り組んで、日本の都鄙観念の史的展開についての理解をいっそう深め、また、(C)の課題を本格的に考察して、都鄙観念をめぐって浮かび上がる日本文学史、日本文化史にかかわる検討課題を整理する。都鄙観念の史的展開に関しては、主に、応仁の乱以後の戦国時代、織豊政権期、江戸時代前期の文学テキストに注目して考究を進める。その上で、古代から中世を経て近世前期に至る都鄙観念の史的展開を通観し、都鄙観念のしくみを根源的に捉え出すとともに、日本文学史、日本文化史を展望する上での検討課題とすべき、都鄙観念をめぐる諸問題を明らかにして、その相互の関係を総合的に理解することをめざす。平成27年度も、平成26年度と同様に、文献の閲覧、実地調査と成果発表に重点を置いた研究を進めることになる。
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