2014 Fiscal Year Research-status Report
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25580054
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
杉山 欣也 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (90547077)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 三島由紀夫 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間2年目に当たる2014年は、10月29日より11月11日にかけて、サンパウロとリオデジャネイロを調査したことが大きな研究内容である。2013年の調査に引き続き、三島由紀夫が作中に記した内容を確認し、彼が「見て・書いたもの」の把握に努めた。結果として、三島が「見て・書かなかったこと」の概要が理解できるに至った。これは、三島文学の表現上の特質をより一層明らかにすることにつながる。つまり、三島が見た同時代のブラジルから、なにを書かなかったかを理解することによって、彼が書いて明らかにしたことと隠蔽したこととの差異を際立たせることができるのである。 一例を挙げれば、三島の滞在時である1952年に於けるブラジル日系人社会が見舞われていた状況(勝ち組・負け組問題に端を発する日系社会内部の亀裂等)について、三島は十分に知り得る立場であったにもかかわらず、『アポロの杯』等の作品中でほとんどその実情に触れていない。そのように考察し、三島のブラジルに対する興味・関心のありようや、作品の問題性が浮き彫りになりつつある。 これらの研究成果の一部は、上記の滞在時にサンパウロ大学と州立リオデジャネイロ大学で行った二つの講演で発表し、現地の研究者と討議を行った。なお、2015年8月にサンパウロで開催される国際シンポジウムにて発表予定であるほか、現在執筆中の論文にて詳述する予定である(そのうちのいくつかは2015年度中に公刊することとなっている)。 上記のような観点を萌芽として、三島以外の日本人作家たち(たとえば石川達三・島崎藤村・大宅壮一・川端康成等)のブラジル体験との差異を明らかにする必要を強く感じ、その研究を進めた。具体的には、サンパウロの日本文化関連施設の蔵書等を調査するなどして、より広い視野から三島のブラジル表象の特質をとらえることを目指すこととした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度に引き続ブラジルを調査し、研究の進展を図るという意味において、今年度の研究は十分に当初の計画レベルに達していると評価できる。現地の踏査により新たな事実をいくつか発見し、三島と関係を持った人にインタビューを行い、三島の書かなかったことが奈辺にあるかを推測することができたことは大きな進展である。一方、当初の計画に入れていたリンス調査は実施しなかった。これは現地に赴いてもはかばかしい発見はないであろうことがインタビューなどからはっきりしたためである。また、現地の研究者との協力関係が築けたことは大きな進展であった。ただし、調査報告を発表することが、講演等の口頭ではできているが、まだ活字化できていない。この点があるため、「当初の計画以上」とまではいえず、「おおむね順調」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度の研究については、まず、2015年8月にサンパウロで開催される国際シンポジウムにてこれまでの成果を発表することが掲げられる。これによって、「三島が見て・書かなかったこと」の内容を明らかにし、また多くの現地研究者等に批評を受けることで、その実相をしっかりと確定させたい。 また、このシンポジウム以外にも、日本国内でシンポジウムを行うことが決定している。これにも別の内容の発表を行うことで、幅広い内容についての研究成果公開を行う。同様に、2013年の講演の内容についても、公刊の方向で準備を進めている。 なお、上記シンポジウムの内容については、活字化の方向で調整している。それ以外にも、すでに複数の原稿依頼があることから、これらを執筆・公刊し、研究成果を発表する年とする。 また、「研究実績の概要」に書いたように、三島以外の作家におけるブラジル表象についての研究に着手することも今後の研究課題である。これについては、未知の側面を含むチャレンジとなるが、サンパウロにおける上記のシンポジウム参加の機会を生かして、現地の研究者との交流を深め、新たな人脈と知見を獲得してその推進の方策とする。
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Causes of Carryover |
2014年度は単身での1回の調査であり、また期間も短めであったため、通訳等の謝金を合わせても金額に届かなかった。また、2013年度終了時より2015年度での大規模な実地調査等を考えていたため、その費用を見越して2014年度の支出を抑え、400000円程度を2015年度にまわすつもりであった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記「理由」欄にも触れたように、2015年度に参加するサンパウロでの国際シンポジウムへの参加が2014年度中に決まっており、また、その際にはいままで訪問していない場所を含めて2014年度以上の規模での実地踏査を行う計画を立てている。その旅費に使うことが使用計画の大きな部分となる。また、研究成果の公開にも費用が必要となる可能性が高い。それらの原資とする。
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