2015 Fiscal Year Annual Research Report
戦時下文学史の再編成に向けて-階層性とジェンダーの観点から―
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25580055
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
根岸 泰子 岐阜大学, 教育学部, 教授 (20180698)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 近現代日本文学 / 通俗小説 / 戦時下 / 文学の社会性 / 産業報国運動 / 竹田敏彦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は最終年度である本年度までに、平成26年度までの研究で得た成果をベースに、新たな文学史への接続という中心課題への一定の結論を得るとともに、読者大衆の心性のより具体的な様相を把握することができた。以下に概要を示せば、①読者大衆(国民心性)と呼応した時代背景の精査 ②①をコードとしたテクスト(「生産化粧」)読解による竹田テクストのリベラリズムの析出 ③女性読者へのアピールの実態の解明 ④同時代文壇が挫折した「文学の社会性」の継承者としての竹田テクストという新たな文学史的位置づけ ⑤女性文学と市民性について小山いと子に特化した調査の実施、の5点となる。 まず①については時局と通俗文学の関係性について、それがもっとも先鋭なかたちで出現する近衛新体制期の産業報国運動に絞り込んで考察を行った。②では近衛新体制期の世界情勢(ブロック経済および自由主義的資本主義体制下の階級格差)に対する竹田テクストが、一君万民イデオロギーの近衛新体制を全肯定するのではなくむしろ旧労働組合的な「労働者の生活権の擁護」を唱えた点を指摘した。③については、『婦人倶楽部』の読者投稿欄の分析により、女子労働者という読者層の具体的な反応を確認し、ジェンダーと階層というテーマをより絞り込んで分析した。④では昭和12年頃から始まる「生産文学」運動における文壇の時局へのアプローチと竹田テクストとの共通性と異質性を考察し、文学の社会性という当時の竹田の主張の文学史的意義を析出した。⑤ではジェンダーと市民性というテーマに即して、生産文学の旗手とされた小山いと子の同時期の「オイル・シェール」以下のテクスト群を調査し、成果発表には至らなかったものの中流上層階層の一員ゆえに知り得た重化学工業産業の内部への批判性-社会性-を析出している。 以上の本年度の成果発表については、単著論文一件を発表した。
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