2015 Fiscal Year Research-status Report
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25580074
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
長井 裕子 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (50135604)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マンガ / 役割語 / 中国語 / 翻訳 / 文化位相 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本のサブカルチャー、とりわけマンガやアニメは、日本発の新しい文化として世界各国の若い世代から絶大な支持を集め、もはや単なるエンターテイメントにとどまらず、日本の社会や文化を知る窓口として極めて重要な役割を担っているといえる。中華圏(中国、台湾)においても大量の日本のマンガ作品が翻訳出版されている。 本研究では、中華圏における日本のサブカルチャー、とくにマンガの翻訳のあり方について、とくにマンガ特有の「役割語」に注目してその実態を分析し、さらに中国文化における「役割語」機能を持った表現について文学テクストを中心に探り、「役割語」をどのように翻訳していくべきか、その方法論を検討し、それによって、トランスナショナルな文化伝達におけるさまざまな問題の解決の糸口を探ることを目的としている 。 当該年度は前年度に引き続き、日本マンガの中国語訳を原著と対照して分析し、翻訳における問題点を浮き彫りにすることに努めた。とくにさまざまなマンガに現れる地域色を帯びたキャラクターが発する「お国ことば」についての翻訳について、講談や漫才、演劇など大衆文化における発話を中心とする文学テクストや近代以降の翻訳文学における戯曲シナリオを中心とする文学テクストの翻訳も比較対象して、分析を進めた。 本年度はさらに日本マンガの「役割語」、とくに方言の翻訳について詳細に分析を進め、地域性キャラクターの持ち味を生かすにはどのような翻訳が有効かについて、その方法論を考察していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は前年度に引き続き資料の収集を行うのと並行して、より問題点を絞り込んで分析を進めることに努めた。現在までの進捗状況は下記のとおりで、若干の遅れはあるものの、おおむね順調に進展している。 1.資料収集:前年度に引き続き分析の対象となるような中国語訳されたマンガ作品を日本国内、また台湾、中国に赴き収集につとめた。またそれらの日本語の原本も収集した。 2. あらかじめ設定した「役割語」項目のうち、とくに「お国ことば」の翻訳に着目し、阿部夜郎『深夜食堂』、高木直子のコミックエッセイシリーズほかについて、日本語原著との対照リストの作成作業に着手し、研究ノートとして取りまとめる準備を継続している。 3.地域性キャラクターの持ち味を生かすにはどのような翻訳が有効かを探るため、中国の大衆文芸における「お国ことば」の表現について、整理を進めている。この点について、やや整理不足の点があるので、28年度は集中的に整理・分析を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はこれまでの作業の一部を継続しながら、取りまとめ作業を行う。 まず、引き続きこれまで着目し、整理してきた「お国ことば」の翻訳について、日本語原文との比較調査を研究ノートとしてとりまとめる作業を進める。 さらにこれまでに収集した中国の大衆文化における発話を中心とする文学テクストを整理し、より詳細な分析を加えていく。そして、地域性キャラクターの持ち味を生かす「お国ことば」をいきいきと伝える中国語翻訳の方法論について考察を加え、論文としてまとめ上げる。
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Causes of Carryover |
本研究は日中間のトランスナショナルな文化伝達における文化位相について、日本のマンガにおける「役割語」の中国語翻訳に注目して検討し、日本文化受容の質的な実態とその問題点を明らかにし、翻訳文化の進展に寄与しようと努めている。現時点において、『深夜食堂』などについて、原作と翻訳(台湾版、中国大陸版)の「役割語」に注目し、比較対照表を作成した。しかし質的分析深化に必要な文献解析などが未完了であるため、当初の計画から一年間の延長を申請したものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
必要な資料の収集はほぼ終わっているので、収集した資料の質的分析に努め、報告書の作成にかかわる諸経費に使用する予定である。
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