2013 Fiscal Year Research-status Report
「感情交流」アプローチによる聴き取り調査の実施と語られざる戦争体験の収集
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25580154
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
石田 隆至 明治学院大学, 国際平和研究所, 研究員 (10617517)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張 宏波 明治学院大学, 教養教育センター, 准教授 (00441171)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 感情交流 / 戦争体験 / 聴き取り調査 / 歴史認識 / 島根 / 戦後和解 / 東アジア / 中国 |
Research Abstract |
今年度は特に島根県に在住する元兵士の会のメンバーからの聴き取りを集中的に実施した。 具体的には、戦争の加害経験を証言する島根県内の元兵士3名(複数回の聴き取りを実施した対象者あり)、その遺族4名のほか、島根県以外の元兵士3名、加害証言を引き継ぐ戦後世代5名、中国で戦争関連施設を訪問した市民など多様な対象者から聴き取り調査を行った。また、裏付け史料の収集活動も複数回実施した。 中国では、北京において1950年代の中国で日本人戦犯の教育にあたっていた戦犯管理所元職員1名から聴き取り調査を実施したほか、撫順、瀋陽、哈爾浜などで戦犯の教育に関する史料収集や現地調査を実施し、戦争被害関連の研究者との研究交流も行った。 こうした調査の内容や分析の結果を、学生との勉強会を通じて還元する機会も複数回持つことができた。 島根県の元兵士の会への聴き取りを続けているなか、中心的メンバーN氏の体調悪化が進行したことから、優先順位を高めてかなり集中的な訪問・聴き取り調査を実施した。戦時中の自らの行為を深刻な「罪」として認識していたN氏にとって、戦後は「戦争を可能にした戦前の社会関係」を転換するために地域社会のなかに根を張りながら歩むことで、個人としての贖罪も果たそうとしていた。「最期の時」までその反省を貫くことが被害者の無念に対する最低限の向き合い方であるという真摯な姿勢は、彼らの証言活動をサポートする戦後世代に戦争責任の捉え方を再考させ、認識や感情にも大きな変化をもたらすものだった。こうした変化を記録する調査者の側の感情や認識をも合わせて捉えて分析していくなかで、日本/中国、加害者/被害者といった歴史認識問題を規定する基本的区分線を相対化させる手がかりを、示唆的ながら掴むことができたことは一定の成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
90歳代を迎えている戦争体験者への聴き取り調査という研究の性格上、対象者の高齢化という現実に制約される要素が大きく、今年度は島根県の元兵士への調査を集中的に実施することを余儀なくされた。インテンシブな聴き取りを継続的・集中的に実施し、ライフコースの最晩年において戦争体験が有する意味に迫ることができたことは一つの成果であった。また、別の戦争体験者からも、90歳代を間近に控えた今だからこそ語り出した経験を聴き取ることができ、「語られざる戦争体験」が語られ始める条件の一つとして、次世代への継承願望があげられることが見えてきた。「個人の戦争経験」が「共同体の戦争体験」あるいは「共同体を越えた戦争体験」として通時的に認識され直されるとき、封印されていた語りが駆動し始めるのである。秘められていた経験を初めて語るときには感情や認識の動揺や揺れが見られ、その意味を合わせて聴き取ることで、体験というものがどのように構築されているのかを考察する手がかりとすることができた。 一方、福島県で戦争体験の聴き取りを重ねていた民間研究者との共同調査は、上記の調査を優先するため実施できなかった。本研究の感情交流アプローチの可能性を検証するためには、本研究における調査対象者と類似した戦争体験者への聴き取りを実施してきた研究者との共同研究が重要な意義をもつ。今年度の加害者調査を継続しながらも、次年度に実施できるよう計画を調整していきたい。 なお、本研究は、研究分担者の張宏波が研究代表を務める別の研究課題(「『東アジア共通の歴史認識』構築にむけた『感情交流』アプローチの応用研究」)の継続研究と位置付けており、研究の目的や手法が共通しているため、同研究で残された課題を引き継いで取り組んでいくことにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は、次年度の計画として、今年度の加害者調査に対照させる意味で、中国における被害者調査を実施する予定であった。しかし、今年度の聴き取り調査を想定以上に重点的に実施したため、本来今年度に実施する予定であった調査を次年度に移行する必要性に迫られている。また、今年度実施した加害者調査も継続して実施する予定であることから、大幅に研究計画を組み替えて、予定していた河北省興隆県における日本人キリスト者の戦争関与に関する本格的な現地調査は見送る予定でいる。それに代えて、本研究で対象としてきた元日本人戦犯に関する研究拠点の整備が進められている遼寧省大連市の大学を訪れ、感情交流の意義を確認する短期の研究交流を実施する。福島県での調査に関しても、当初より計画を縮小して実施する予定である。 戦争体験者の超高齢化という現実に即した形で、聴き取りの蓄積を最優先しながら進めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
基金経理でもあることから、精算処理の関係上、少額が次年度分に繰り越し処理されたもの。 次年度分の研究費も、応募時の申請額に比べて減額されているため、すべての計画を実行することは困難な部分があり、縮小を余儀なくされる。具体的な準備のなかでどのように縮小するかは決定していく。 また、今年度まで続けてきた加害者調査も継続を要する課題でもあるため、それとの関連で全体計画を修正していきたい。
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Research Products
(4 results)