2013 Fiscal Year Research-status Report
ポスト口蹄疫・宮崎の和牛文化:国家政策と生殖テクノロジーが変える人と動物の関係
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25580185
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Osaka University of Economics and Law |
Principal Investigator |
大野 あきこ 大阪経済法科大学, アジア太平洋研究センター, 研究員 (80648733)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 和牛 / 口蹄疫 / 宮崎県 / 人と動物 / 生殖テクノロジー / 地域文化 / グローバル経済 / 科学技術と政策 |
Research Abstract |
本年度は、口蹄疫被害によって平成22年に家畜がゼロとなった地域(宮崎県児湯郡)を対象に、復興途上の和牛生産農家の交配戦略(和牛の血統づくり)と経営についての現地調査を行った。主として6次産業化(生産から加工・販売までの一貫経営)に参入した畜産農家と民間の種牛づくり農家を対象にした。 6次産業化参入者は、牛個体の個性を重視した選別と長期肥育や、あえて稀少血統を導入するという付加価値向上を優先した事業展開を選択していた。また、民間種牛農家は、人気のある種牛の血統に偏って和牛遺伝子が全国的に平準化している現状を招いた国・県の家畜改良事業団の方針に危機感を持ち、各地域系統の正しい交配理論の指導をかねた独自の血統づくりを選択していた。 日本政府の家畜改良増殖計画は近年、霜降り高級肉という差別化方針から平均的な品質で早く育つ和牛という効率性重視へ180度方向転換した。また、TPP参加決定や輸入飼料の高騰に対応するために大規模化による効率化の方針を打ち出している。本年度の調査では上記のように、和牛生産現場での取り組みがこのような国家政策と必ずしも親和的でないことが明らかになった。 その一因は、小規模経営が伝統的に多い地域文化にある。また、和牛づくりは生業であるだけではなく、交配法則の解明に情熱を注いだり、表現形の美しさを競う競技会での入賞をめざすことが醍醐味であるという生産者のライフスタイルがある。このような文化的要因により、大規模化や効率化の余裕がなくとも小規模農家が存続していることが示唆された。 一方で、政府の方針が不透明であるための不安により、廃業を視野に入れた小規模農家が従来なら繁殖用に自家保留する優秀な子牛を手放しつつある。優良血統の子牛の県外流出が始まり、政策では考慮されていない高齢・小規模農家の動向がすみやかに全国的な畜産経営に影響を与えることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予定していた現地調査についてはほぼ計画通り遂行した。しかし、その後研究代表者の健康上の理由により、収集したデータの分析および発表準備作業がやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も研究計画にしたがい現地調査を継続するとともに、本年度までに蓄積したデータの分析を進める。 初年度は主に宮崎県児湯郡において、和牛生産農家の聞き取り調査と飼養現場の参与観察を中心に調査を行い、口蹄疫復興後の対象地域における畜産経営について一定の知見をえることができた。次年度以降は、暮らしの中での人と家畜の関係性についての調査と分析に重点を置く。 具体的には、当初の研究計画である口蹄疫禍からの復興地域(児湯郡)における現地調査を中心とした分析に加えて、宮崎県内の諸畜産地帯における古老聞き取り、祭祀・郷土史資料の収集を行う。このように宮崎県の畜産業の歴史的変遷をたどることで、人と家畜との関係性における文化変容を視野に入れた分析が可能となる。 日本の和牛生産において、人と家畜の日常的な関係を大きく変化させたのは昭和30年代からの役牛から肉用牛への変換期である。研究開始時には明らかではなかったが、その転換期に指導的役割を果たした「たねや」(凍結精子による人工授精の普及以前、種牛を保有できた地方名士)と呼ばれる地域指導者が県内各地に存命であることが判明した。その時代を詳しく知る古老の証言を収集することにより、地域の動物観の時代的変遷の検証を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現地調査旅費の当初の見積もり額と実際の精算額に誤差が生じたため。 次年度使用額は、次年度の現地調査旅費に充当する計画である。
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