2013 Fiscal Year Research-status Report
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25590008
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大沢 秀介 慶應義塾大学, 法学部, 教授 (40118922)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アメリカ移民法 / 不法移民 / 移民政策 / アリゾナ移民執行法 / 出入国規制 / ブラセロ・プログラム / ゼノフォビア / 国際情報交換(アメリカ) |
Research Abstract |
今年度の研究の成果としては、法学研究(慶應義塾大学)87巻2号(『小林節教授退職記念号)(2014年)に掲載した「アメリカにおける移民政策・移民法に関する一考察」(以下、本論文という)があげられる。この論文の内容は,アメリカのオバマ大統領によって提案された移民政策と移民法に関する改革案について、その提案の趣旨およびその改革案に対する連邦議会での審議に触れた後で、アメリカにおける移民政策と移民法の展開を歴史的に検証しようとしたものである。 研究の目的との関係についていえば、本論文は、アメリカの移民問題をめぐるこれまでの歴史的過程の検討を踏まえて、移民の国として知られるアメリカで展開された移民政策には3つの特色(移民と帰化の密接な関係、移民における白人の優遇、移民規制をめぐる連邦と州の権力関係)があること、そしてそのような特色から見て、現在問題となっているメキシコ系不法移民の問題をどのように理解するべきかについて、総論的に検討したものである。 つぎに研究実施計画との関係においては、日本でのアメリカの移民政策と移民法に関する文献を収集した際に、これまでのわが国における研究の蓄積が少ないことから、アメリカの移民法学者からの情報収集と意見交換が不可欠であるとの認識に至ったため、本論文においては、アメリカの移民法学者の著した著作を読み込んだ上で渡米し直接その著作の意図について質すという研究方法をとった。幸い、アメリカ人学者からは好意的な対応が示され、わが国では十分に知られていない文献や市民団体の存在等を知ることができた。それらのアメリカ人学者との意見交換および市民団体関係者との意見交換は、本論文作成上の大きな基盤を形成することになった。なお、これらのアメリカ人学者や市民団体との連携は今後も重要な研究方法の一部をなすと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の達成度については、おおむね順調に推移していると考えている。交付申請書に記載した研究目的においても触れてあるように、これまでわが国においては、アメリカの移民法制に関する研究成果は乏しいものがあった。その理由の一つとしては、アメリカの移民法制や移民政策が、アメリカへの多様な人種の流入によって、大きく変更されることがたびたびであり、また現在においても変更の可能性を秘めているために、その制度把握自体がそもそも難しいためであったと考えられる。その問題点に対して、本研究では、歴史的研究ばかりではなく、現行移民法制や移民政策の側面からの研究も視野に入れるというアプローチを採用した。そして、本年度の計画を遂行する過程において、この点についてアメリカ人学者や市民団体、さらにアメリカの議会関係者との意見交換が重要であることが明らかになった。そこで、今年度は、渡米の目的として、単なる資料収集だけではなく、アメリカ移民法学者や市民団体、さらにアメリカの連邦議会調査局の専門家とのネットワーク作りを重視した。その点は、本年度の研究の達成度に大きく寄与したと考えている。 ただ、今年度の研究の過程の中で、最近の移民法制と移民政策の中心となっているのは、いわゆるドリーム法と総称される一連の法案であること、さらに、その背景にはドリーム法の内容を含んだ、さらなる移民法制と移民政策の包括的変更が議論されていることが明らかになった。この点で、アメリカにおける最近の包括的な移民制度改革案を検討する必要性があると強く感じられた。もっとも、今年度においては、その点について十分な研究をなすことができなかった。この点で、研究の達成度という点から、若干の課題が提示されているように考えている。この点については、次年度で十分研究できるように考えていくつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策については、おおむね当初の方針通りに遂行していくつもりである。研究の推進方策については、基本的にはわが国でも行うことのできるアメリカ移民法研究書籍の収集・整理、アメリカ最高裁をはじめとするアメリカの裁判所の判例理解という基礎的な研究と、アメリカにおける移民法学者、市民団体、議会関係者との意見交換などの現地調査を重視して、2つの観点から進めていくということについては、基本的に妥当と考えており、今後もこの方針に基づいて研究を遂行していくつもりである。 ただ、今年度の研究の経験から、研究の推進方策に大きな変更を与えるものではないものの、検討すべきいくつかの課題も見つかったように思われる。第1に、アメリカの移民法制と移民政策の展開においては、大統領を含めた連邦政府の権限も強い反面、アメリカが連邦制を採用しているところから、州や各州から選出された議員の影響力が大きいことが明らかになった。この点については、これまで本研究においては、それほどの力点を置いていなかったところである。その点については,今後連邦議会での移民法の審議過程や連邦議会調査局の報告書などを丹念にフォローする必要性があると思われる。そのために、わが国で入手できる資料や報告書を収集・整理した上で、直接議会関係者との意見交換を諮りたいと考えている。第2に、今年度は文献等にとどまったわが国の外国人問題について、直接外国人の取り扱いが問題となっている地域に赴き、その現状について把握するように努める必要があると考えている。そのために、外国人問題が課題となっている都道府県にいる研究者と連絡をとり、その地域での外国人の居住や職業等をめぐる具体的な問題点について、正確に把握し、本研究の達成度の向上につなげていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた理由は、以下のような3つの事情による。第1に、まず、本年度については、アメリカの移民法制および移民政策の基礎的研究およびアメリカ人学者や専門家等との意見交換が重点的に行われたため、資料整理等の人件費が必要とされなかったことがあげられる。第2に、わが国とアメリカの移民法に関する書籍の購入費が、想定以下であったことによる。この点は、アメリカの移民問題が、経済、文化や歴史、社会問題といった広汎な領域で著作の対象となり、全体としては移民に関する書籍は多いものの、移民法制や移民政策に関する著作が少なかったとの理由による。第3に、本年度は主としてアメリカでの学者や専門家との意見交換を中心に検討を行ってきたため、わが国での外国人問題を抱える地域について、当該地域にある大学等の研究者との意見交換の機会が少なく、また現地調査のために必要とされる費用が支出されたなかったためである。 次年度使用額として生じた助成金と今年度助成金の使用については、以下のように考えている。まず、今年度は2年目になり、資料や成果も揃いつつあるところから、今年度はアルバイト等の支出を増やすことにしたいと考えている。とくに、アメリカの移民法の条文等の整理を進めるつもりである。第2に、アメリカの文献については、アメリカの市民団体等が、わが国の流通にのらない形での書籍を多く出していることから、それらの書物を購入することにしたいと考えている。第3に、今年度においてあまり研究が行えなかったわが国の実情に関係する調査について、関心を有する学者や所管の官公庁との連携を行う形で進め、そのための費用を支出したいと考えている。第4に、アメリカでの現地調査の関係については、今年度は特に議会関係者との接触および意見交換をはかりたいと思っており、そのための支出を行う必要があると考えている。
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