2014 Fiscal Year Research-status Report
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25590008
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大沢 秀介 慶應義塾大学, 法学部, 教授 (40118922)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 移民法 / DOMA / 不法滞在外国人 / 保見団地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績の概要は以下の5点に集約できる。①日本の代表的な移民関連学会である移民政策学会及び日本移民学会がそれぞれ2014年6月に開催した年次大会に出席し、現在の移民政策及び移民法制に関する研究の状況を見た。その結果、各学会ではさまざまな研究成果が発表されていたが、アメリカの移民に関する法制および政策については十分な情報が得にくいことがわかった。②日本と対比してアメリカでの現状がどのようなものであるかについて知るために、6月にアメリカで移民法を専門に研究する学会に参加した。この学会にはロースクールで教鞭を執りながら実際の移民をめぐる紛争で代理人を務める学者らと話し合うことができ、さらに学会でのワークショップに参加して、アメリカ人移民法学者と有意義な意見交換を行うことができた。③わが国における外国人労働者とその家族に関する実情を調査するために、わが国の代表的な外国人集住地として知られる愛知県の豊田市(保見団地)および浜松市を訪問した。豊田市及び浜松市では市役所の担当者およびNPO法人の人々から行政の外国人労働者への対応、政策などについて聞き取り調査を行った。さらに県レベルでの移民政策を知るために、この問題について積極的な政策展開を図っている静岡県庁を訪れ、担当者からその政策の具体的内容について聞き取り調査を行った。そして、その結果を論文として公表した。④アメリカのオバマ政権による不法滞在外国人の子弟に市民権獲得に至る可能性を有する権利を認める政策に関して、その内容およびを法的問題を明らかにするために、資料を収集・分析した上で論文を執筆し、寄稿した。⑤2015年3月に、アメリカのカリフォルニア州立大学バークレー・ロースクールからジョン・ユー教授を招いてオバマ政権の移民政策に関する講演会を開催し、研究者を交えた聴衆との間で意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究目的の達成度については、以下のように自己評価している。まず、研究の進展が見られた点を上げる。交付申請書に記載した研究目的では、アメリカの移民法制について、立法や判例の形成過程とそれらの基盤にある社会的、政治的状況との間の相互影響関係に焦点を当てて研究したいとしていたが、この点については、その一端を現在のアメリカにおける不法滞在外国人子弟の合法化を目指すオバマ政権の政策を憲法との関連で評価する業績をものすることができた。このことは研究目的であげた「国家の主権行使の阿智硬や移民の人権問題」を包括的かつ総合的に明らかにしたいという本研究の目的をさらにすすめるための基盤となり得るものである。また、アメリカでの学会参加により、アメリカ人学者からの情報収集及び意見交換を行うことができ、また移民問題を抱える州の現状を知ることができた。さらに、今年度は本来は第3年度に予定していた日本における外国人労働者の実態に関する調査を、市や県の実務担当者およびNPO法人の関係者への聞き取り調査を中心に行うことができ、かつそれをまとめて論文として大学の学術雑誌に公表することができた。この点は今年度の大きな成果の一つである。他方、研究の目的の達成度がやや遅れ気味な点もある。それは、アメリカの移民法制について、その内容をより具体的に明らかにするという点である。この点については、すでにアメリカの学者を招聘して講演を行ってもらうなどによって、対応を開始しているが、今後はさらにその点を進めて、論文の形で公表することができるようにしたいと考えている。以上のような現在の研究状況を考慮すると、研究目的の達成度についての自己点検表かとしては、おおむね順調に推移しているという評価が妥当であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策については、おおむね以下の3点を考えている。第1に、現在のアメリカの移民法制の基本を形成したと言われる1965年移民法の立法過程と履行過程について、アメリカの文献を収集して、分析を加え、それを論文の形で公表することを考えている。この点については、わが国でも一部研究がなされているが、さらにその点を深く研究する必要性を感じているからである。しばしば現在のアメリカでは移民法制の包括的改革が言われているが、その改革の焦点を構成していると考えられる基本的な部分はあまり明らかにはされていない。そのような点を踏まえ、今年度はこの点により集中的に努力を傾注し、明らかにしていくように努めたい。第2に、アメリカでの学会への参加を今年度も行いたいと考えている。アメリカでの学会参加は、直接現在のアメリカ人移民法学者の関心に触れることができ、有意義であることが、これまでの研究過程での経験から明らかになっている。そのような中で、とくに歴史的な研究の部分に注目をしていきたいと考えている。さらに、時間的余裕が許せば、これまでの研究の中で必ずしも十分に行えなかった移民問題を抱えるメキシコ国境の州で、現地の状況を確認する機会を作りたいと考えている。また、日本へのアメリカ人学者の招聘についても、その可能性を今年度もできる限り追求していきたいと考えている。第3に、今年度のわが国での外国人集住地域での実態調査の結果をもとに、わが国の入国管理法制の実際的な運用状況との関係についても、より調査を進めていくことにしたいと考えている。今年度の聞き取り調査の過程の中で、現在の外国人労働者家庭のとくに子弟の教育にかかわる問題点は明らかにされたが、それとわが国の入国管理法制との因果関係について明らかにしていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、人件費がまだ生じていないためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は3年計画の3年目に当たるため、研究をまとめるために人件費を使う予定である。
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