2013 Fiscal Year Research-status Report
意思表示能力が障害された患者の医療契約に関する実務法学的視点からの検討
Project/Area Number |
25590027
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | College of Heathcare Management |
Principal Investigator |
樗木 浩朗 保健医療経営大学, 保健医療学部, 教授 (70607093)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樗木 晶子 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60216497)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 意思能力 / 意識障害 / インフォームド・コンセント / 救急医療 |
Research Abstract |
1 文献的調査:身体の処分に関わる同意については、法律行為と行為能力の問題と比較すると、判例の蓄積や専門家の考察さらにはインフラとしての法律などの点から、雲泥の差が存在するということを再認識した。医療契約の当事者である患者が意思表示が行えない状態である時に、契約の根本的要素である意思が存在するかということを正面から捉えて検討した研究を見いだすことは出来なかった。わずかに、推定的意思の存在を議論したものを散見したのみであった。 2 カルテレビューによる後ろ向き調査:生のカルテをひとつひとつ閲覧して、各種同意書の調査を行うという時間と手間のかかる調査を遂行している。これまでに約280例のカルテ(男性142名、女性142名:平均年齢は男62.3、女70.3才)を調査した。全体として見ると各種承諾書になされた本人名の署名で明らかに患者本人が行ったと思われたものは、全ての書類の10%に満たない事が判明した。意識レベルが清明と判断された50例においても本人が手術承諾書の本人欄に署名したのはわずかに3例であった。 3 米国での現状調査:Arnot Ogden Medical Center( Elmira, NY, USA )訪問 同院は地方都市の基幹病院である。同院の一般外科医、集中治療室担当医、救急医療担当医に面会しインフォームド・コンセント(IC)の現状について話を聞くことが出来た。集中治療や救急医療では、急激に悪化する患者を救うための処置が優先されるとのことであった。本人の同意はおろか,家族の同意も得ることなく処置が進むこともあるとのことであった。 本人に同意能力がない場合には、ICは next of kin (近親者)から得ることが通常のようである。ICに関してアメリカ合衆国は日本より遥かに進んだ印象があったが、同じ一般外科医の間でもIC取得に際しての温度差があるようであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1文献的調査:(概ね順調に進展している。)意識障害のある患者に対するインフォームド・コンセントの問題に関して、真正面から論じた研究は少なく、医療現場においても医療契約の法的性格について検討されていないことは把握出来たが、その周辺領域は未調査である。 2カルテレビューによる後ろ向き調査:(少し遅れている)生のカルテの調査であり、関係医療機関に多大な負担をお掛けしている。調査の時期は先方の都合を最優先して決定するため、時間が掛かる点は仕方ない。ある程度の症例数は調査することが出来て、全体のトレンドを把握出来て、今後の研究方針・対象疾患を決定するのに重要な示唆をえた。 3米国での現状調査(計画通り進んだ)
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Strategy for Future Research Activity |
1文献的調査:身体の処分に関する同意・意思表示について、より詳細な調査を行う。アメリカの地方病院への訪問調査で明らかになった、 next of kin(近親者) の法的役割という視点を加え、日米の比較法的視点に立ちさらなる調査を行う。また、カルテレビューから判明した、「同意能力があったにも拘わらず、本人の同意がきちんと表示されていない場合、例えば患者署名欄に本人の署名が妻などの近親者によって行われる」ことの法的有効性に関する調査を行う。 2カルテレビューによる後ろ向き調査:平成25年度は希望通りには症例数を重ねることが出来なかった。しかし全体的な傾向を把握することが可能であったので、今後は協力医療機関の診療録管理室のさらなる援助を仰ぎながら、出来るだけ多くの症例について、検討を重ねることとしたい。 3比較法的視点にも立脚したアメリカにおける医療現場での現状調査:平成25年度は地方都市の基幹病院を訪問したが、26年度は大学病院クラスの大病院を訪問することとしたい。next of kin の法的役割について医療現場における考え方を聞き取り調査したいと考えている。また、大学の法律研究者や医療関係の弁護士などにインタビュー出来る様に努力したい。
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