2014 Fiscal Year Research-status Report
ハンガリーの体制転換(1989)と国際環境の史的考察
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25590040
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
荻野 晃 長崎県立大学, 国際情報学部, 教授 (10405566)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 鉄条網の撤去 / 亡命希望の東ドイツ人 / オーストリア国境の開放 / 体制転換 / 難民条約 / 汎ヨーロッパ・ピクニック / 対東ドイツ交渉 / 主権国家の「国益」 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究では、1989年のハンガリーの体制転換の国際環境に関して、東ドイツとの関係に焦点をあてて分析した。ハンガリー国立公文書館での一次史料の閲覧、議会図書館での二次文献の収集、精読の結果、ハンガリー政府による1989年5月のオーストリア国境の鉄条網撤去から同年9月の西ドイツ亡命を求めて殺到した東ドイツ国民への出国許可までの対東ドイツ交渉を検証した。 具体的な研究成果として、ハンガリーによる東ドイツ人へのオーストリア国境の開放の歴史的な意義について、2014年12月に第3回ハンガリー学会(関西外国語大学で開催)で報告し、論説として『法と政治』(関西学院大学法政学会)第66巻第1号、2015年5月にまとめた。 学会報告及び論説の概要は、以下のとおりである。 1989年の夏に西ドイツへの亡命を求めて自国に殺到した東ドイツ国民への対応は、体制転換当時のハンガリーにとって、最大の外交課題となった。ハンガリーは東ドイツ人への国境開放を決定し、西ドイツからの支援を取りつけた。そして、1989年9月11日にハンガリーは東ドイツ人の出国を許可した。従来、ハンガリーからの東ドイツ人の出国について、同年8月19日に開催された汎ヨーロッパ・ピクニックの果たした役割が重視されてきた。しかしながら、国境開放に至る政策決定を通してハンガリー外交が社会主義諸国の「同盟」の論理から主権国家の「国益」の論理へ変化したこと、国境開放によって当時の東側陣営内部における改革を志向する国と現状維持を志向する国との奇妙な勢力均衡の崩壊による陣営そのものの解体につながったことが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初から平成26年度の段階での研究では、ハンガリーの体制転換当時の国際環境について、オーストリア国境の鉄条網撤去がもたらした影響を検証する予定であった。ブダペストで一次史料にアクセスして研究を進める中で、東ドイツとの交渉に焦点をあてて分析することの重要性を感じた。実際に、対東ドイツ交渉を検証する中で、体制転換の過程で生じたハンガリー外交の変化への理解が深まった。 研究成果を第3回ハンガリー学会(2014年12月、関西外国語大学)で報告し、論説『法と政治』第66巻第1号、2015年5月にまとめるプロセスで、ハンガリーによるオーストリア国境の開放が当時の国際秩序の変革を促した歴史的な意義を考察できた。同時に、オーストリア国境の開放へ至る冷戦期のハンガリー外交とくに西ドイツ、オーストリアとの関係を考える契機にもなった。同時に、ハンガリーにとっての東の国境について検証する課題が残った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究計画では、体制転換の時期におけるハンガリーとルーマニアとの関係に焦点をあてる。 1980年代後半、ルーマニアのチャウシェスク政権は国内のハンガリー系少数民族への抑圧姿勢を強化した。その結果、ハンガリー国内では、ルーマニアへの反発が強まった。さらに、1988年5月のハンガリー社会主義労働者党書記長カーダールの退陣以降に体制転換が進行する中で、ワルシャワ条約機構の加盟国であるハンガリーとルーマニアの関係は悪化の一途をたどった。 1980年代後半のハンガリー・ルーマニア関係の分析に際して、はじめに英語及び入手済みのハンガリー語の二次文献を精読して、研究動向の把握につとめる。その後、9月にハンガリー国立公文書館で一次史料の収集を行う。具体的にはハンガリー社会主義労働者党政治局議事録、同党中央委員会国際部、ハンガリー外務省のルーマニアとの関係に関する文書を閲覧する計画である。また、体制転換当時のハンガリーの国内事情に詳しい研究者に教示を願う。 10月以降、現地で取集した史料を検証した後で研究成果をまとめる作業を始める。予定として、平成28年4月に『法と政治』(関西学院大学法政学会)に投稿する論説を完成させる。同時に、平成25年度から3か年の研究課題をまとめる作業を開始する。
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Causes of Carryover |
平成27年度の研究課題として、1980年代後半のハンガリー・ルーマニア関係に関する論説を作成する。論説の作成に必要な二次文献の購入とハンガリーでの現地調査のため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年9月にブダペストに滞在し、ハンガリー国立公文書館で一次史料、具体的にはハンガリー社会主義労働者党政治局議事録、同党中央委員会国際部、ハンガリー外務省のルーマニアに関連した文書を閲覧する計画である。また、研究に必要な英語の二次文献を購入する予定である。
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Research Products
(2 results)