2014 Fiscal Year Research-status Report
越境する「死」-オランダ・スイスの安楽死をめぐる社会学的比較研究
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25590127
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Research Institution | Hyogo University |
Principal Investigator |
牧田 満知子 兵庫大学, その他部局等, 教授 (80331784)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 安楽死 / 尊厳死 / 渡航自殺 / 緩和医療 / 終末期医療 / 医慮保険制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は9月に約2週間かけてスイスとオランダでの調査を行った。スイスは既に2013年に行った調査でかなり資料を得られており、また関係機関、大学(チューリッヒ大学)で聞き取りが行えているので、2014年度はスイスの保険制度・緩和医療に調査項目を絞り、連邦社会保険庁で聞きとりを行った。スイスの制度はオランダ同様私保険であり、かつ連邦ごとに相違があるなど、国が保険者である日本の制度とは異なるが、それ故に高額となる医療費を避けて無駄な延命治療を中止する、或いは「安楽死」を容認するという方向に向かうのかと考えたが、必ずしもそうではないという結論を得た。次いでオランダでは、安楽死協会(アムステルダム)とライデン大学で聞き取りを行い、法による明確で詳細な規定に基づいて年々漸増している安楽死希望者の裁可が行われている事実、とりわけここ数年は精神的苦痛による安楽死要請が増加し、これが安楽死法に違反する可能性がある事から大きな社会問題となっているという結果を得た。さらに、オランダから隣国ベルギーへと移動し、4月に制定された安楽死の年齢撤廃法に関して、関係機関に連絡をとり聞き取りを行った。とりわけ「ベルギー終末期医療と生命倫理研究会」(ベルギー自由大学およびケント大學)での聞き取りは臨床現場での重い課題をつきつけてくるもので、考えさせられた。そこでのレファレンスを得てフランスのCCNE(国立生命倫理研究所)でも聞き取りを行った。2005年のレオネッティ法以来、治療の差し控え・中止が合法とされたため、「終末期医療」に関してはフランスは現在大きな課題には直面していないが、それでも「ヴァンサン・アンベール事件」が提示する「安楽死」の課題には答えを出せていないという事であった。今後は同様に人権の立場から英国の「パーディー判決」なども視野に入れ、この問題を深めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度は予備的調査の段階と位置づけ、筆者にとっては未知のスイスの自殺幇助に重点をおいて関係諸機関との連絡・調整・聞き取りを行った。そして2014年度は本格的にオランダ・スイスでの調査を行ったが、その調査の過程から、近隣諸国での比較調査へと研究が大きく飛躍・展開していった。とりわけ「2014年法」を5月に制定したベルギーでの聞き取りは望外の結果を得られ、またフランスの専門機関での聞き取りも多くの示唆を与えてくれるものとなった。ただスイスのDIGNITASは直に面談には応じない姿勢を崩さず、メールでのやり取りのみである。唯一DIGNITASの代表者が出席する国際会議に同席し話を聞くことが近道であるが、そしてその情報を得られる立場にあるが、授業等との関係で即座に動けないというジレンマがある。今後はメールでの情報を中核としつつ、英国・フランスの渡航自殺者へのアプローチを続けていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は本研究の最終年度となる。テーマはスイスとオランダの安楽死の制度比較であるが、現実にはこれらの制度を相対化させて検証する必要から、近隣のベルギー、そしてスイスへの渡航自殺者を多く輩出させているフランス、ドイツそして英国を射程に入れ、「安楽死」という制度の内包する妥当性と異常性という視点から研究を進める予定である。5月末から10日間スイスとフランスの2か国で調査を予定している。授業等の関係および相手方との日程調整もあり、一度に訪問できる国が限られるのはやむを得ない。9月にはオランダ、ベルギーそして英国で調査を予定している。とりわけ英国ではPurdy事件な人権問題の視点から安楽死問題を研究しているブリストル大学のハクスタブル教授にお会いし現在の英国の渡航自殺の現状について聞き取りを予定している。これらの成果は秋の学会で発表し、また最終年である事からこれまでの論文、報告書、資料等をもとに本としての形にもっていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
人件費・謝金の出費が僅少である理由は、連携研究者に謝礼が支払われないと言われたこと、また情報提供者、および研究協力者とともに研究会を持ったが、その際の飲食費は支払われないと言われたことで、これらは自費で出費した。また2013年、2014年と現地で調査のアレンジや通訳をしていただいた協力者にも自費で交通費と謝金を支払った。物品費が僅少である理由は、必要なものは自費で賄うことが多かったからである。科研費から物品を購入する場合、本学では本一冊、コピー1枚でも理由書の提示を求められるため、教育研究に専念しなければならない状況にありながら、そうした作業に時間をとられるのは理に合わないと判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度(今年度)はそれらを生かして、調査研究をさらに充実したものにするために利用したい。
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