2015 Fiscal Year Research-status Report
越境する「死」-オランダ・スイスの安楽死をめぐる社会学的比較研究
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25590127
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Research Institution | Hyogo University |
Principal Investigator |
牧田 満知子 兵庫大学, その他部局等, 教授 (80331784)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 安楽死 / 尊厳死 / 緩和ケア / ACP(アドヴァンス・ケア・プランニング) / 自殺幇助 / 渡航自殺 / ホスピス |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は国内調査(2回)および海外調査(2回)を行った。国内調査では介護老人保健施設、介護老人福祉施設で取り組まれている終末期ケアについて聞き取りを行った。また関西福祉科学大学の柏木先生からオンコサイコロジー(精神腫瘍)の研究動向についてお話をうかがうなど、日本における緩和ケアの現状の理解を深めた。6月にSTAKES(国立保険福祉機関/フィンランド)でT.ハマネン氏(STAKES福祉部門専門家)からEUにおけるACPの実際についての詳細な説明を受け、終末期ケアについての日本との考え方の相違、類似について概要を理解することができた。スイスではEXITのCEOであるB.ズッター氏から直接、組織、運営に関わる詳しい話を聞くことができ、スイスにおける「安楽死」の維持存続に市民の賛同と協力が欠かせないことを再確認できた。しかし同じ自殺幇助機関であってもEXITはDIGNITASの活動に対して批判的であり、今回も筆者はDIGNITASへの接触はできなかった。ストラスブール(仏)の欧州人権裁判所ではV.ランベール事件の判決に関して関係者から話を聞くことができ、「治療の差し控え/中止=尊厳死」に関する欧州基準を確認することができた。12月に英国に渡り、ホスピスを中心に聞き取りを進めた。CAG(NHS法251条に助言する機密諮問グループ)では英国における難病患者の人権問題について話をうかがうことができた。しかしCAD(自殺幇助団体)では反対者達の襲撃があり面談はかなわず、また希望していた渡航自殺者の家族に会うことはできなかった。スイスでは近年需要が目覚しいホスピスケアについてアールガウ、チューリッヒ、ベルンの各市で聞き取り調査を行うことができ、医療面、環境面、そしてスタッフの層の厚さという点において、興味深い示唆が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年、2014年の経過を踏まえて、2015年度は主にスイス、英国、フランスの「安楽死」の方向性を探ることを目的とした。さらに「安楽死」「尊厳死」問題に関してEU諸国全体の流れも把握すべく、STAKES(フィンランド)でEUの共同プロジェクト(ACPに係る緩和ケア)の概要を聞き取り調査するなど本研究の外枠を確かなものにできた。また、幸いなことに調査をおこなう過程で海外の研究機関からの協力の申し出が得られ、ベルギー、フランス等で望外の調査を行うことができた。その成果は本研究の内容に厚みを増してくれる貴重なものであり、最終的には論文に生かしていきたい。比較対象国のオランダは2014年に資料をかなり渉猟しており、最終年の今年はそれを十分に読み込む作業に徹する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
スイスでの調査のうち、EXITと並んで主要な調査対象であるDIGNITASは自殺幇助志願者としか接触しないと返事をしてきており、海外のメディアからも孤立していることから、 今後は独自に英国のCAG(での調査事例をもとに研究を進めていく予定である。スイス型とオランダ型の比較を明確にするためにも、再度スイスEXITの相互扶助制度の調査とスイスへの渡航自殺を支援するCAD(自殺幇助団体)での聞き取りを継続して行い、最終的に「安楽死」という選択と個人の権利の問題を制度比較を通して検討していく。
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Causes of Carryover |
海外調査は2回おこなったが、調査に付随する諸経費は個人負担とした。現地での調査協力費も本科研費では一部のみの支払いとし、実際には多くの協力者の助けを受けているがその出費は全て個人負担とした。 また、消耗品等は個人研究費で購入したものを利用した。国際学会への出席を2回予定していたが、諸般の事情により参加がかなわなかった。さらに、国内において2度会議を開いたがこの文の諸経費も個人で支払った。こうしたことから予定していた経費より実質的に少ない出費となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の計画にも記載しているが、スイスと英国での最終的な調査をおこなう予定である。
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