2013 Fiscal Year Research-status Report
日常生活自立支援事業に関する研究-利用者の自己決定とコミュニティワークからの考察
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25590145
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
飯村 史恵 立教大学, コミュニティ福祉学部, 准教授 (10516454)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 権利擁護 / 支援システム / アドボカシー / コミュニティワーク / 地域自立生活 / ガバナンス |
Research Abstract |
平成25年度は研究初年度であり、3回の研究会並びに4か所のヒアリング調査を実施した。研究会では、全体の方向性を確認すると共に、次年度予定されている本格的な調査のための予備調査の内容・方法等の妥当性を検討した上で調査を企画し、実施・分析した。調査実施先としては、札幌市及び福岡県久留米市・八女市・筑後市社会福祉協議会を選定し、日常生活自立支援事業を現に利用している当事者並びに当該事業を担当している職員等にヒアリングを行った。 その結果(1)社会福祉協議会職員は、当該事業の必要性を認識しているものの、業務内容や支援体制、手続等の不十分さ故に、権利擁護(アドボカシー)という機能を十分発揮できないジレンマを抱えていること、(2)支援のシステム化の必要性を認識してはいるが、個別のニーズ分析は必ずしもできておらず、コミュニティワークを実施するという意識が希薄であること、(3)不十分な実施体制の背景には、本事業を実施する社会福祉協議会組織の成り立ちの曖昧さが存在し、組織としての自律的な機能を発揮することができず、構造的に脆弱性を持ち合わせていること等が浮き彫りになった。 しかし、これらの問題の相互の関係性や原因となる事項の精査、さらに、今回ヒアリングを実施した社会福祉協議会における地域特性、公的サービスの整備状況、当事者団体や地域住民の意識等を考慮に入れた上での総合的かつ包括的な分析を行うまでには至っていない、というのが実情でもある。 従って、次年度以降の本格調査においては、この点を明らかにした上で、最終的には、本事業における課題解決のための具体的方策を提示できるよう、さらに精度の高い研究を推進していく必要があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本事業に関する基本的な文献や先行研究を収集し、読み解きつつ、初年度は、3回の研究会を開催した。特に全国的な本事業の実施状況並びに成年後見制度との関連については、全国・都道府県社会福祉協議会等で発行した冊子や調査結果報告書等を入手し、全体的な動向や各地方自治体及び社会福祉協議会が抱える課題について、その外郭を把握することができた。収集された資料には、貴重な内容が含まれているものも多く、これらを十分活用しながら、次年度は、よりオリジナリティの高い調査を実施する必要性も確認することができた。 また事前に本学コミュニティ福祉学部・研究科倫理委員会において、本調査を含む調査実施に当たり、倫理上の問題点は存在せず、学部の研究倫理指針に準拠しているとの承認(2013年8月30日付)を得た上で、地域性や規模の異なる合計4か所の社会福祉協議会において、予備調査としてのヒアリング調査を行うことができた。ヒアリングでは、調査実施の同意確認もスムーズに行われ、10名の利用者と7名の社協現場担当者から、事業に関する問題点や課題を聴取することができた。 これらにより、研究目的に掲げた利用者の主体性の確保という観点、またコミュニティワークの発揮というアプローチは、現状では極めて難しい状況にあるという現場の実情が明らかにされた。また、その背景に、社会福祉協議会という組織と、地元自治体の関係性が大きな影響を与えていることが、仮説として浮かび上がった。このような意味において、今年度の予備調査を含む研究は、一定の成果が上がったと判断することができる。 しかしより本質的な問題は、課題の要因分析であり、それを解決するための方策なのであり、そのため上記成果を次年度に活かしていくことが重要になるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度同様、3ヶ月に1回程度の研究会をベースにしながら、計画的に研究を行う予定である。研究2年目に該当する平成26年度は、本研究の主軸となる量的・質的調査の実施を予定しているため、これらの対象・手法・内容等を研究会で精査しながら研究を進めるものとする。また初年度においては、研究成果を十分アウトプットできないままに、年度の終了を迎えてしまったため、最終的な報告書の作成を念頭に置き、少しずつ成果を社会的に披露できるよう、論文執筆や学会報告等の諸準備についても、併行的に進めていきたいと考えている。 なお、先行研究の精読や分析を進める中で、全国社会福祉協議会が平成24年度厚生労働省社会福祉推進事業により、地方自治体並びに社会福祉協議会を調査対象として、本研究で扱う事業に関する全国的な調査を実施していることが明らかになった。この調査で収集され、公表されている自由記述等の更なる分析を行うことにより、本研究の課題が明確になる可能性が高いため、許諾を得た上で、二次分析を実施する予定にしている。このため、質的調査の専門家である和秀俊氏(田園調布学園大学人間福祉学部講師)の協力を得たいと考えている。和氏には、当初から予定していたアンケート調査並びに聞き取り調査に関する助言も併せて受ける予定である。 また、本事業における公的責任を果たすためには、地方自治体の任務と役割も非常に重要になると予測され、この点からのアプローチについて、新たな研究協力者として、地方自治行政に詳しい専門家である大矢野修氏(龍谷大学政策学部教授)からもアドバイスを得ることとしたい。 新たにこのような研究協力体制を整えた上で、予定していた調査について再度検討しつつ、調査の実施並びに分析を進め、今後の研究を深めていく所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初購入を見込んでいた一部の文献資料および主として次年度調査に使用する予定であったソフトウェア等については、予備調査の進捗状況から、購入資料・物品の精査や検討が必要になり、今年度の購入を見送ったため。 今後の見通しとして、資料購入にかかる経費は、当初の見積より相当少ない経費で済むと思慮され、一方で、各地における特色ある実践を実施している社会福祉協議会等のヒアリング調査を実施する必要性が高まったため、主として旅費に充当しながら、今後も計画的な予算執行に努めたい。
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