2014 Fiscal Year Research-status Report
子ども視点から見るデジタル絵本の可能性と陥穽:縦断調査を中核とした萌芽的研究
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25590172
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
遠藤 利彦 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (90242106)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 絵本読み聞かせ / 母子相互作用 / アプリ型絵本 / 紙絵本 / 指さし |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、急速な勢いで社会全体にデジタル化の波が押し寄せている。乳幼児を取り巻く発達環境も例外ではなく、殊に子どもが最初に出会うことになる絵本についても既に相当数のアプリ型絵本が開発・配信されている。しかし、その子どもの認知・社会的側面の発達に対する影響は、未だほとんど実証的検討に付されてはいない。こうした現状を受けて、本研究は、本年度、家庭におけるアプリ型絵本の使用が、母子の相互作用に、どのような影響をもたらし得るかについて、紙絵本使用の場合および積み木遊びの場合との比較を通して、実証的知見を得ることを企図した。調査協力者は、1歳児の母子8組、2歳児の母子8組の計16組であり、各家庭に観察者が訪問し、母親の許諾を得た上で、ビデオカメラにて各種相互作用の撮影を行った。その後、その録画データに対して、母子それぞれの発話・指さし等のコーディングを行った。母子それぞれの指さしはともに紙絵本使用の場合が最も多く、アプリ型絵本使用場合は、それよりは少ないが、積み木を用いた相互作用よりも特に母親の指さしは有意に多いという結果であった。また、紙絵本とアプリ型絵本両方の場合で、母親の指さし頻度が子どものそれを上回る結果であり(積み木場面は母子でほぼ同頻度)、相対的に形態の違いはあれ、絵本の場合は、母親主導で相互作用が進行しやすいことが推察された。もっとも、その際の母親の発話は、紙絵本使用の場合は「説明」や「命名」が多いのに対し、アプリ型絵本使用の場合では(アプリ操作のための)「援助」が多く、相互作用があまり深化せず、絵本の意味的世界にまで子どもの関心が十分には至らない可能性が示唆された。なお、今回、全体的に顕著な年齢差は見出されず、子どもの年齢以上に母子ペア間の差異の方が際立っていたと言え得る。ちなみに、この成果は遠藤みずき氏の2014年度東京大学教育学部卒業論文としてまとめられ、提出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アプリ型絵本使用が家庭における母子相互作用にいかに影響を及ぼし得るかに関しては、今回、ほぼ当初の予定通りに基礎的知見を得ることができたと判断される。ただし、対象とした子どもの年齢は1、2歳と低年齢であり、子どもの年齢がそれよりも上になり、徐々に子ども自身による自発的な一人読みが生じてきた場合に、アプリ型絵本使用と紙絵本使用の場合に、いかなる差異が認められるかに関しては、今後の解明すべき課題として残されたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
絵本は親子の日常の相互作用に非常に重要な役割を果たし得るが、それはまた子ども単独によっても頻繁に使用され、その一人使用のあり方が、子どもの発達に母子相互作用とは別種の寄与をなしている可能性も少なからず想定される。そこで、今後の方向性としては、子どもの単独使用状況における、アプリ型絵本の用いられ型等に刮目して観察データを収集していくことが必要となろう。また、絵本は親と子のようないわゆるタテの関係ばかりではなく、子ども同士のいわゆるヨコの関係の中でも頻繁に用いられ、その相互作用や遊びの進行に重要な働きをなすものと考えられる。そこで、保育所等における子どもの自由遊び場面にアプリ型絵本を導入した場合の影響を、紙絵本使用場合との比較を通して審らかにするということも視野に入れて、研究を展開していくこととしたい。
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Causes of Carryover |
消耗品の購入において当初予定していた額よりも安価だったため、わずかながら残金が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
観察調査実施にかかるデータ保存媒体等の消耗品費の一部として使用する予定である。
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Research Products
(12 results)