2013 Fiscal Year Research-status Report
ミュー粒子の異常磁気能率におけるQCD力学の格子計算方法の開拓
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25610053
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
早川 雅司 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20270556)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 異常磁気能率 / ミュー粒子 / QCD / 格子ゲージ理論 / 光-光散乱振幅 |
Research Abstract |
ミュー粒子の異常磁気能率に対する、素粒子の標準模型による予言値と実験測定値との間に現時点で伺われる矛盾を理解する上で、QCDの非摂動力学に由来する寄与における理論的予言の精度及び信頼性を向上することが要求されいている。特に、QCDによる光と光の散乱を通じて誘導される寄与は、現時点での実験精度を考慮しても無視できない。そして、純粋にQCDの非摂動力学の理論計算が要求されるにも関わらず、ハドロンを変数とする低エネルギー有効理論などに基づく評価しかされていないのが現状である。例えば、このようなモデル計算では含めることができない力学の寄与の定量的な大きさに関する知見は、場の量子論の第一原理に基づきQCDの非摂動力学を計算しなければ得ることができない。 本研究は、このQCDによる光-光散乱振幅がミュー粒子の異常磁気能率に及ぼす寄与を、格子QCDシミュレーションによって数値的に計算する方法の開拓を目標としている。現時点で手中にある方法は、QEDも格子正則化して(QCD + quenched QED)のシミュレーションによって、クォーク部分とミュー粒子部分をつなぐ2つの仮想光子を計算機の中で生成し、また、重要な寄与を優先的に計算する暗黙の重み付けを図る。研究期間の前半の主な達成目標は、この方法の有効性を実際の計算を通して確認することである。 準備期間から初年度までの提案方法に基づく予備的計算では、非自明なシグナルを得ることができた。また、このシグナルの大きさはターゲットとする寄与のQED摂動の次数から期待されるものであり、提案方法が有効である上での必要条件の一つが満たされていることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一部分ではあるがQCDの光-光散乱振幅から寄与を計算する方法としては、申請時においてすでに、(QCD + quenched QED)の格子シミュレーションによるの方法を実際的な候補として提唱し、それに従い計算を実行するプログラムの作成の準備を開始していた。そのため、提案方法によって計算可能か否かに関する問いに関する計算の実行を初年度中に果たすことができ、対象とするFeynman図からの磁気的形状因子への寄与に対する予備的な計算結果を得ることができた。現時点で伺われている系統誤差の要因を特定する課題に今後取り組むことで、提案方法が機能するかどうかに対する答えが計画通り2年目の間に得られると見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
提案方法に従いシミュレーションを実行した結果、非自明なシグナルを得ることができた。提案の(QCD + quenched QED)による格子シミュレーションの方法は、QEDの摂動の6次である光-光散乱振幅の寄与を得る上で、4次の寄与の差し引きを要求する。従って、これまでの予備的な計算により、統計誤差に埋もれることなく、6次の寄与として期待される大きさのシグナルが得られていることは、方法が機能する上で求められる最も重要な要件を満たすことを意味する。 他方で、外部状態がミュー粒子の1粒子状態に十分射影されていないことに起因すると考えられる結果の不安定性が確認されており、まずは、この系統誤差の要因を確実に特定するための追加の計算を推進する。並行して、漸近的にミュー粒子1粒子状態に射影する必要がない計算方法の開発と、有限体積効果に関する分析を主な目的とする、これまでよりも大きい規模の計算を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ミュー粒子の異常磁気能率に対するQCD効果に特化したWorkshopは、年度をまたぐ形で開催された。次年度中の滞在費と帰国時の旅費を次年度の研究費として執行する必要があった。 第一ステップとしては、QCDによる光-光散乱振幅から誘導される寄与のうちの一部を計算するための方法の開拓を目指して来たが、そこでは quenched QED のみで十分であった。すべての寄与を計算する上で今考案中の方法は、dynamical QED simulationを要求するため、Program開発においても十分な容量のメモリと高い演算能力のCPUを搭載するdesktop型PCが要求される。しかし、初年度中に購入を予定していた計算機が市場に出回らなかったため、発注を延期し、その代わりに、資料作成及び論文作成用のlaptop PC を購入した。 年度をまたぐ形でMainzにおいて開催された「ミュー粒子の異常磁気能率に対するQCDからの寄与」に関するworkshopに参加するに当たり、次年度中の滞在費と帰国時の旅費を次年度の研究費として執行する。また、発注を延期した desktop型PCの購入に使用する。
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