2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25610075
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
大道 英二 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00323634)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | サイクロトロン共鳴 / カンチレバー / 有効質量 |
Research Abstract |
H25年度はカンチレバーを用いてサイクロトロン共鳴信号を検出するための測定系を構築した。本研究ではサイクロトロン共鳴の際、試料が電磁波を共鳴吸収し軌道半径が変化することに着目し、その信号を軌道反磁性の変化として検出しようとするものである。従って、基本的な装置構成は研究代表者がこれまで構築してきたカンチレバーを用いた電子スピン共鳴(ESR)測定装置と同様の構成となる。 カンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴信号の検出に際しては、高純度、軽い有効質量、異方的な有効質量を持った試料が有望と考えられたため、本研究では測定試料としてグラファイトを念頭に置いて装置を作成した。グラファイトの面内有効質量は自由電子の0.05倍程度であるため、80 GHzの電磁波に対し共鳴磁場は約2000 G程度と見積もられる。そのため、本研究では銅線を用いてソレノイド磁石を自作した。磁場を自由に制御することが必要になるため、電圧-電流変換回路を用いて磁石用電源を自作した。これにより、3000 Gまで磁場を発生できるシステムを構築した。また、液体ヘリウムベッセルと組み合わせて実験が可能な測定用ホルダーを自作した。 測定系のテストとして有機物超伝導体試料を用いて4.2 Kで超伝導状態の磁気トルク測定を行った。その結果、第2種超伝導に起因する磁気トルクのヒステレシスループの観測に成功し、測定系が正しく動作していることを確認した。さらに、実際にHOPGグラファイトと呼ばれる結晶性の高いグラファイトを用いてサイクロトロン共鳴測定を試みた。電磁波を照射しない状態でグラファイトの軌道反磁性に伴うトルク信号を検出することに成功した。しかし、電磁波を照射した状態でサイクロトロン共鳴信号の検出を試みたが、現時点ではまだ検出には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画ではH25年度に(1)測定系を構築、(2)サイクロトロン共鳴信号の検出を目標として挙げていた。このうち、(1)については実際に本年度中に必要な測定系の構築を実際に行い、その動作を確認することに成功した。その中でも特に、磁場発生系は高い磁場精度と制御性が求められるため、一から設計、自作を行う必要があった。作製にはかなりの時間を要し、完成が年度後半にずれ込んだが、測定に必要な仕様を実現することができた。実際に既知の物性を示す試料を用いてトルク測定を行った結果、過去の文献とよい一致をしめす結果を得ることができた。このことから測定系の構築は当初予定していた通りの成果が得られたといえる。 サイクロトロン共鳴信号の検出に関しては、測定系の構築に準備がかかったためグラファイトを用いたテスト的な測定を行うにとどまった。グラファイトはカンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴測定の有望な候補の一つではあるが、現時点では信号検出に至っていない。しかし、GaAs-HEMT基板や有機伝導体などサイクロトロン共鳴信号の検出が期待される試料はほかにもあるため、引き続き測定を行うことでサイクロトロン共鳴信号の検出が期待できる。そのため、本研究は当初研究計画と比べ現時点において、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずはカンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴信号を検出する必要がある。グラファイトを用いた予備的な測定では信号検出には至っていないが、これにはいくつかの要因が考えられるため、引き続き、測定を行う必要がある。特に、グラファイトのサイクロトロン共鳴信号は線幅が狭くシャープであるため、微分検出が有効であると考えている。カンチレバー付近に磁場変調コイルを設置し、微分検出を行うことにより検出感度を大幅に改善できる可能性がある。すでに磁場変調検出の測定系は準備ができているので、今後は磁場変調によるサイクロトロン共鳴信号の検出を試みる。 また、測定試料として他の候補を測定することも必要であると考えている。例えば、過去にもサイクロトロン共鳴信号の測定例がある物質系として2次元有機伝導体が挙げられる。有機伝導体は結晶性がよく、試料サイズも1 mm角程度であるためカンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴測定に適していると考えられる。有効質量は自由電子の値に近いためグラファイトに比べより高い磁場が必要になる。そのため、超伝導磁石と組み合わせて測定を行い、サイクロトロン信号の検出を試みる。 また、現行のピエゾ抵抗方式では感度に限界があるため、より高感度な検出方式が望ましい。そのような方法として光ファイバーを用いたFabry-Perot干渉計による方法が挙げられる。この方法ではカンチレバーの変位を光の干渉強度の変化として高感度に検出することができる。この方法はピエゾ抵抗方式に比べよりも高い感度を実現することができる。今後はカンチレバーホルダーを新規に設計、作製し、現行のサンプルホルダーと組み合わせることで感度の向上を図り、サイクロトロン共鳴信号の検出を可能にする。
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