2013 Fiscal Year Research-status Report
グラフェンの格子-磁気相互作用解明のための極低温高効率ラマン散乱分光測定
Project/Area Number |
25610078
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
三井 正 独立行政法人物質・材料研究機構, 表界面・構造物性ユニット, 主任研究員 (90343863)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高増 正 独立行政法人物質・材料研究機構, 表界面構造・物性ユニット, グループリーダー (60212015)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | グラフェン / ラマン散乱 / 強磁場 / 極低温 |
Research Abstract |
本研究の目的は、グラフェンやカーボンナノチューブ等の新炭素系材料、シリコンに代表される半導体エピタキシャル膜等の2次元電子系材料の電子状態や光学特性を、強磁場・極低温の多重極限状態において精密に測定することである。具体的には、当機構が所有する大型強磁場マグネット内部で、30 T、4.2 Kの環境下で動作する高効率集光装置を開発し、グラフェン材料の格子-電子相互作用や欠陥、シリコン等の2次元電子系に格子の歪が与える影響などを系統的に研究することである。 平成25年度は、強磁場マグネット用の高効率顕微ラマン散乱測定装置の製作及び開発を行った。本研究課題開始段階の平成25年3月に試作品が完成していたが、熱膨張係数の違いから発生する応力による部品類の破損を防ぐ機構や、強磁場の影響を防ぐ設計について、最適化が行われていなかった。そこで、本年度、ダイクロイックミラー等の光学部品を特別に設計、加工する等の開発を行い、測定装置を完成させた。また、レーザーからの光を専用挿入用プローブへ入射させる部分、および専用挿入用プローブからバンドルファイバを用いて引き出した光を対物レンズで並行光にした上でノッチフィルターを介して分光器に入射させる部分、等の「外部光学系」の製作も行った。 その後、本装置でHOPGグラファイト試料、単層グラフェン試料のラマン散乱測定を行い、この光学系(30Tマグネット用10m光ファイバ光学系)で、室温環境ではあるが、高いS/N比を持つラマンスペクトルの測定に成功した(2013年8月)。この光学系での測定は世界初である。この結果は平成25年9月に同志社大学京田辺キャンパスで行われた応用物理学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年11月3日に、研究分担者である高増 正(表界面構造・物性ユニット ナノ物性グループ グループリーダー(52才))が、薬石の効なく、死亡した。(平成25年11月20日、研究分担者変更承認申請書)。ただし、本研究における研究分担者の研究役割が「試料作製・実験観察」であったため、上述のラマンスペクトルの測定と応用物理学会での発表以前に、完了していた。そのため、研究の進捗と目的達成には支障はなく、おおむね順調に進展している。研究分担者の研究役割について代替手段は本質的に必要なく、次年度以降の研究計画についても変更の必要はないと考えられる。現在、論文の執筆と、国内および海外での学会発表を準備している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、平成25年度に得られる成果を基に、グラフェン以外の材料についても、その格子-磁気相互作用の解明を目指す。具体的には、シリコンや砒化ガリウムに代表される半導体エピタキシャル膜等の2次元電子系半導体材料や、スピントロニクス材料の、磁気的光学的特性を系統的に測定する。 物質・材料研究機構の強磁場マグネット群は、専用挿入用プローブの規格が統一されているため、本研究で開発する装置も大型強磁場マグネットで使用可能である。そこで、平成26年度は当機構が保有するハイブリッド方式の大型強磁場マグネットを用いてより強い磁場(30T)での実験を行うため、装置のの改良を行う。ただし、当該、大型強磁場マグネットは非常に多くの電力を消費するため、昨今の節電要請を鑑み、平成26年4月~6月に行う。 今年度は各種部品や消耗品、特に、寒材(液体ヘリウム)等のために予算を計上する。 外国旅費の用途としては、2014年11月に米国ボストンで行われる国際材料学会(Materials Research Society)での成果発表と、海外研究者との情報交換を計画している。国内旅費は、平成25年度と同様、研究代表者が日本物理学会に参加するとして計上する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた主な理由は、旅費が十分に執行されなかったためである。これは研究分担者が病気療養中だったため、全く使用しなかったことが大きい。実験装置の開発のために、物品費での使用が大きくなったが、これを埋め合わせるほどではなった。 現在、本年度得られた成果の論文執筆と国内および海外での学会発表の準備をしている。次年度、その成果発表費用として英文校正料や論文投稿料、旅費が増えると考えられるので、それに使用する。 また、大型マグネットでの実験を行う際に、必要になる部品や消耗品が新たに生じる可能性がある。さらに、寒剤(液体ヘリウム:全量海外からの輸入)の入手が困難な状況は相変わらず続いており、円安もあって、余分に費用がかかることも想定される。次年度使用額ははこれらに使用する予定である。
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