2014 Fiscal Year Research-status Report
レーザー偏極原子を使った精密計測のためのスピン緩和抑制コーティングの開発
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25610115
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
石川 潔 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (00212837)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | スピン緩和 / 金属コーティング / 核磁気共鳴 / アルカリ金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
気体原子の核スピン偏極や電子スピン偏極は,原子間の衝突だけでなく,容器の内壁においても減衰する。 このスピン緩和を抑える,内壁改質のためのコーティング剤を開発することが,本研究の目的である。 本研究の成果は,ガラス容器を使った希ガスの核スピン偏極,光ポンピング原子磁力計,携帯型原子時計,原子ジャイロなどの高性能化に貢献する。 しかし,スピン緩和抑制性能を決めている物性は明らかでなく,コーティングの再現性が低いのが現状である。 本研究では,特に,金属膜コーティングについて詳しく計測している。 今年度は,多くのガラス容器で,高磁場NMR計測によるガラス内面のアルカリ金属膜の組成を定量したのち,レーザー光の吸収測定によりアルカリ金属蒸気の密度を測定した。 Na-Rb合金の場合,金属混合比を大きく変えてもRb原子密度があまり変化しないことが,前年度に明らかになった。 その原因について調べるため,合金の混合エンタルピーなど熱力学的パラメータから予想される蒸気密度と計測値を比較した。 予想外のことだったが,偏極原子がガラス表面でイオンになり,さらにガラス内部に侵入しても核スピン偏極が残る現象を観測した。 表面における核スピン緩和について、この新しい知見を論文で報告した。 高温のガラスだけでなく,コーティング剤など他の材料にも偏極原子を注入できれば,新しいコーティング剤の開発や,物性測定のプローブ原子になる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,以下の2点について実験・研究し,おおむね計画どおりに進んでいる。 1.金属蒸気中の原子密度 数多くのガラス容器内の合金試料を製作し,それぞれについてNMR計測で合金比率を求め,光吸収測定で原子密度を調べた。 蒸気密度の近似として,単純に混合比に比例するというラウールの法則で近似するのではなく,熱力学パラメータからアクティビティを求め、蒸気密度の推定値と実測値を比較した。 2.ガラス内の金属イオンの核スピン緩和 原子の電子スピン偏極はガラス表面で速やかに緩和するが,核スピン緩和は表面だけでなくガラス内部に溶け込んでも持続することがわかった。 ガラス内のスピン緩和の温度依存性を測定するとともに,偏極イオンの注入効率を調べた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は,次の2項目を重点的におこなう。 1.アルカリ合金のNMR計測と光吸収測定による原子密度計測 これまで2年間の実験を継続し,コーティング材料,合金組成と蒸気密度などの経年変化を調べる。 2.有機分子膜のNMR計測 有機分子の水素原子核や重水素原子核などのNMR計測をおこない,次に,ガラスや有機分子膜に溶けたアルカリ金属のNMR計測をおこなう。 アルカリ金属としては,セシウムやルビジウムに加え,より小さな原子半径のリチウムについても実験する。
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Causes of Carryover |
2年度の物品については,おおむね予定通り,アルカリ金属試料,ガラス材料,光学部品などを購入したが,初年度繰越金の一部を3年度に繰り越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
申請当初に予想していなかったリチウム金属で実験するため,追加で光学部品などを購入する必要が生じた。 それには本年度の繰越金をあてる。 3年度配分の予算は,予定どおりの物品(おもに消耗品)を購入する。
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Research Products
(2 results)