2014 Fiscal Year Research-status Report
微小管系分子モーターの化学-力学共役機構と力学的破断特性の統一的解明
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25610121
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
墨 智成 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (40345955)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 分子モーター / 化学-力学共役機構 / 確率的モデリング / 単一分子計測 / キネシン |
Outline of Annual Research Achievements |
微小管系分子モーターの一つであるキネシンを対象にして、これまでに報告されている単一分子観測データを徹底的に調査/分析し、化学–力学変換機構を表現する確率的モデルを構築した。キネシンは二つの足の各々にATP結合サイトを持ち、単独で持続的二足歩行することが可能な分子モーターである。 (1)各足のヌクレオチド結合状態に依存した微小管との結合の強さおよび(2)分子内張力に起因した化学的状態遷移の間に存在する対称性/非対称性に基づく考察により、これまで考慮されてこなかった力学的ステップ遷移および化学的状態遷移を取り入れた確率的ネットワークモデルを構築し、従来とは異なるATP濃度に強く依存した前進ステップサイクルを導いた。この結果は富重らの一分子観測実験に基づくモデルと定性的に一致する。結果をまとめると以下のようになる。 (a)高ATP濃度下では、両足ATP状態からの、後ろ足でのATP加水分解反応に引き続き力学的ステップ遷移が生じる。 (b)低ATP濃度下では、後ろ足でのATP加水分解反応を伴うスリップサイクルがメインサイクルとなり、外部負荷に耐えながら、確率的に前進ステップ遷移が生じる。 以上の結果は、基本的にATPおよびADPは各足へ結合しやすくかつ脱離しやすいという化学的性質、並びに前足と後足の間に働く分子内張力に起因した化学反応速度の対称性/非対称性のみから自然に導かれる確率過程として再現される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
キネシンに関する現在までに報告されている単一分子観測データを再現する確率的ネットワークモデルを構築することができた。その結果を解析することにより、これまでに知られていなかった上述の様な物理的洞察を得た。現在、本研究による結果をまとめた論文を執筆中である。 また、単独で持続的に二足歩行しながら貨物輸送する他の細胞骨格系分子モーターに対しても同様なアプローチが有効であることが示されたので、今後の進展が期待出来る。 分子モデルを出発点にした自由エネルギー解析に基づく研究を進めるために必要な、高精度/高効率溶媒和自由エネルギー計算法を開発した。アミノ酸側鎖や数百個の有機分子に適用し、1 kcal/mol程度の精度で溶媒和自由エネルギーが計算可能であることを示した。本研究の内容はJ. Compt. Chem.で出版予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画では予定していなかったが、単独で持続的に二足歩行しながら貨物輸送する細胞骨格系分子モーター、ミオシンVに関しても、これまでに報告されている単一分子観測データを再現する確率的ネットワークモデルを構築し、キネシンと比較しながら、両者の類似点および相違点を明確にすることにより、分子モーターの化学–力学変換機構に関する新たな物理的洞察の獲得を目指す。 これまでは主に観測結果をベースにした確率的モデリングによるトップダウン的研究であったが、最近我々が開発した高精度/高効率溶媒和自由エネルギー計算法を用いて、分子モデルを出発点にした自由エネルギー解析に基づく研究も進めて行く。
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Causes of Carryover |
ゼロ円に収支を合わすことができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
巨大な分子モーターと細胞骨格および大量の水分子を含む大規模系の分子シミュレーションおよび密度汎関数理論に基づく自由エネルギー計算を行うために、GPGPUを搭載した高速計算機ワークしテーションを購入する予定である。また、共同研究者であるMax-Planck Institute (MPI) of Collides and InterfacesのStefan Klumpp博士との議論のために、MPIに数週間滞在するための経費として使用する。また、情報収集および成果発表のために国際学会に参加する予定であり、その出張旅費として用いる。
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