2014 Fiscal Year Research-status Report
液晶中の転傾の形状を模倣した無機構造体を用いた新液晶相の創出法の確立
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25610123
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
内田 幸明 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60559558)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 液晶 / 多孔質 / 相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
配向秩序を持つ流体である液晶相のうち、フラストレート相と呼ばれる一群の相は、配向秩序が低く高エネルギーの配向欠陥 (転傾) が、配向秩序の高い部分と複雑に絡み合った構造を持つ。原理的には、フラストレート相の転傾部位を別の物質で再現できれば、フラストレート相以外の液晶相との複合化によって、現在までに見出されていない相を含めてあらゆるフラストレート相が実現できるはずである。本研究では、この普遍的手法の可能性を探るため、フラストレート相ではないコレステリック相との複合化により、フラストレート相であるコレステリックブルー相を誘起する、転傾模倣構造体を開発する。 本年度は、転傾模倣構造体としてテトラポッド型酸化亜鉛(T-ZnO)粒子を合成してネマチック相と複合化し、粒子周りの液晶配向場について検討した。 管型焼成炉内に窒素ガスを流しながら加熱することで、亜鉛粉末から亜鉛蒸気を生成し、フローリストリクタ(FR)を用いて酸素ガスと反応させることで異方的な結晶成長を促し、T-ZnOを得た。単分散性の高いT-ZnO粒子が生成していることを電子顕微鏡観察により確認した。現在論文を投稿中である。 得られたT-ZnO粒子をネマチック液晶に分散させ、偏光顕微鏡観察によって、粒子表面の配向性について検討した。その結果、コレステリックブルー相IIの転傾周りの配向性と同じ水平配向となることが明らかとなった。これは、T-ZnO粒子によってコレステリックブルー相IIを誘起できる可能性を示唆している。現在、投稿論文を執筆している。 また、複合体の構造の同定に用いる光伝播シミュレーションについても準備が終わり、T-ZnOと液晶の複合体より単純なコレステリック液晶の配向構造に適用することができたため、学会発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
交付申請書において、平成25年度については、コレステリックブルー相IIの転傾構造を模倣したポーラスカーボンの合成とコレステリック液晶の浸透について、昨年の研究実績の概要にも記載したとおり、学会発表を済ませている。その際、ポーラスカーボンを用いた場合には光学測定が難しかったため、可視光吸収の少ないポーラスシリカの合成を行った。ポーラスカーボンと同様にコレステリック液晶の浸透による液晶相転移挙動の変化が見られたので、現在、投稿論文を執筆している。この成果は当初の計画にはなく、計画以上の進展と言える。 また、平成26年度の研究実施計画として予定したT-ZnO-MDPの合成については、研究実績の概要にも記載の通り成功したので、論文を投稿中である。次にT-ZnOとコレステリック液晶を混合し、偏光顕微鏡観察やX線回折実験、コッセル線解析などで構造を決定するとしていたが、コレステリック液晶に分散するとその構造が非常に複雑になってしまい、解析が難しかったため、より単純な配向構造をもつネマチック液晶中に分散させた。この複合体について、偏光顕微鏡観察を行うことで、粒子周りの配向構造を明らかにすることに成功した。平成27年度の早い段階で公表したいと考えており、計画通りの進展と言える。 さらに、液晶配向場・粒子配列の同時シミュレーションについては、京都大学大学院理学研究科の荒木武昭准教授に指導を受けながら、26年度中に稼働させることができた。同様に、光伝播シミュレーションについても稼働するところまで来ている。この点についても計画通りに進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成27年度は、実験的には、ポーラスシリカ・T-ZnOと液晶との複合体の作製法の確立と相の同定法の開発について検討を行う。また、液晶の配向場のシミュレーションに基づいて、実験結果と比較可能な光伝播挙動を計算し、実験と比較することによって実際の配向場を明らかにする。 これまでの研究で明らかになったように、T-ZnOの表面の液晶分子配向が水平配向であるため、コレステリック液晶と混合することでコレステリックブルー相IIが発現する可能性が高い。本年度は、T-ZnOを配列する手法の開発を中心に行う。偏光顕微鏡観察やX線回折実験、コッセル線解析などで構造を決定する。 一方、ポーラスシリカは、コレステリックブルー相と同様に三次元周期構造を持つが、表面の分子配向状態がわかっていない。そこで、液晶と相分離し、界面に吸着することで配向膜となるPEG等の高分子を少量溶解したコレステリック液晶を浸透させることで水平配向を実現し、偏光顕微鏡観察やX線回折実験、コッセル線解析などを行う。高分子を添加した場合と添加していない場合との違いと、液晶配向場シミュレーションと光伝播挙動シミュレーションにより、全体の分子配向場を同定する。 また、これまでの研究成果と併せて、ポーラスカーボン・ポーラスシリカ・T-ZnOとネマチック液晶・コレステリック液晶との複合化により得られた液晶相転移挙動の変化について結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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