2014 Fiscal Year Research-status Report
自発形成するクーロン結晶における粒子温度と結晶欠陥に関する研究
Project/Area Number |
25610174
|
Research Institution | Japan Aerospace Exploration Agency |
Principal Investigator |
足立 聡 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (80358746)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 微粒子プラズマ / クーロン結晶 / 粒子温度 / 粒子加熱機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度では、精密メッシュを適用した新しい粒子投入器を用い、昨年度購入した高解像度カメラを用いた粒子の挙動観察を行うことで、クーロン結晶の成長速度制御の可能性を調べること、粒子へのエネルギー供給機構の検討を始めること、振動電場を印加し、クーロン結晶を一方向溶融・凝固できるかの検討を行うことを目標としている。精密メッシュを用いた新しい粒子投入器を使用するため、およびより大きなクーロン結晶を得ることを目指して、新しいプラズマチャンバーを試作し、そのプラズマチャンバーに新型粒子投入器を取り付けた。粒子投入器は設計・製作した専用の駆動回路で駆動される。 クーロン結晶は従来の装置よりも大きく広げることができ、当初の目的通りの機能・性能を有しているチャンバーを作ることができたと考えている。一方観察系については、高解像度カメラ特有の問題としてコマ落ちが顕在化した。フレームレートが低下すると、実質的に空間分解能が低下するため、好ましくない。そこで、動画像保存方式の最適化を急遽行った。その結果、ハードウエアエンコードを用いれば、通常のNTSC信号と同様の30 fps程度を確保できることが確認できた。なお、新しい装置の特性の把握に努めている段階であり、成長速度制御にはまだ成功していない。 次に、粒子へのエネルギー供給機構についても検討を開始しており、数eV程度のエネルギーの電子だけではなく、室温程度とされるイオンも大きなエネルギー供給源である可能性があると考え始めている。これについては、次年度モデルを整理し、新しい科研費の提案に結び付けたいと考えている。 最後に振動電場印加についてであるが、今年度は実施しなかった。理由は、振動電場を印加しなくても、粒子を激しく揺さぶることが可能となったためである。主として不安定性を利用し、粒子の再配列が可能かをさらに調べる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度の目標は大きく3つあり、クーロン結晶の成長速度制御の可能性を調べること、粒子へのエネルギー供給機構の検討を始めること、振動電場を印加し、クーロン結晶を一方向溶融・凝固できるかの検討を行うことである。1つ目の成長速度制御に関しては、粒子投入器の駆動回数を増やすにつれて、チャンバー内部の粒子数をある範囲で変えることが可能であることが確認された。しかし、粒子数の上限をより大きくすることには現在成功していない。これはクーロン結晶・クーロンクラウドの形成・維持機構と関連している現象であると同時に、2つ目の粒子へのエネルギー供給機構とも関連している問題である。このため、粒子へのエネルギー供給機構の検討を始めている。イオンのエネルギーは室温程度に低いとされているが、粒子周辺の遮蔽領域の電場によって加速されるため、イオンの実効的な平均エネルギーは室温よりもはるかに高くなると見積もられる。一方、電子の実効的な平均エネルギーはプラズマ中よりも低くなると見積もられる。粒子が存在することにより、粒子が存在しない場合とプラズマの状態が異なることは大変興味深い。今後さらに検討を進める。3つ目の振動電場印加については、現在見合わせている。というのは、外部からの振動電場印加よりもはるかに激しい振動が不安定性によって生じるものの、粒子は散逸せず、集団的な振る舞いを維持することが観察されているためである。従って、いわゆる溶融を引き起こすことは容易では無いことが示唆される。ところが、比較的小さな粒子径を使用すると、中心部付近では固相、周辺部では液相となる現象が観察されている。この固相の領域を徐々に拡大できれば、一方向凝固的な結晶成長が実現できると考えている。そのため、液相を固相に相転移させる方策を今後検討する。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は最終年度であるので、過去2年間の成果を踏まえながら、本研究のまとめを進めることを目標とする。そのためには、(1) 新型チャンバーの特性の把握、(2) 粒子へのエネルギー供給機構のモデル構築、(3) 相転移制御を目指す。(1) においては、新型チャンバーに適した小型のプローブと、そのプローブを掃引するための取付ポートを製作する。同程度の大きさのチャンバーでは計測が困難であるとの報告例があるが、プローブチップを最適化することにより、十分計測可能であると考えている。三次元的なプローブ計測ができれば、宇宙実験において長らく問題となっている粒子不在領域(ボイド)形成の解決にも将来貢献できる可能性がある。(2) においては、平均エネルギーの記述といった基本的な記述は終わっているので、それらを用いて定量的な説明が可能かどうかの検討を進める。粒子へのエネルギー供給が定量的に説明できれば、クーロン結晶・クーロンクラウドの形成・維持機構の理解も大きく前進させることが可能である。さらに、可能であれば、定量性をさらに増すためのパワーバランス・パーティクルバランスといったダストプラズマ分野ではこれまで実施されていない項目にまで拡張を図りたい。(3) においては、既に観察されている液相と固相の共存についての理解を深める。そのためにも、(1) のプローブ計測が必須となる。プローブ計測データを用いて、クーロン結合度と呼ばれるクーロン相互作用の強さの度合いが半径方向に変化しているかどうかを調べる。これにより、クーロン結合度を均一化するための方向を検討する。以上の三点の研究を進め、基盤研究(C)に応募するためのデータを蓄積する。最後に成果を纏めて公表する。
|