2013 Fiscal Year Research-status Report
クラスターのペニング電子分光と多重イオン反射画像観測
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25620010
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
山北 佳宏 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (30272008)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | クラスター / リフレクトロン / レーザー分光 / 画像観測 / ペニング電子分光 |
Research Abstract |
【多重反射質量選別光解離実験】本研究課題の目的は、クラスターイオンの光解離反応の動力学の研究から励起状態における分子間相互作用や化学構造を研究することである。そのため、質量選別したクラスターにレーザー光を照射し、velocity map imaging (VMI)法で解離イオンを画像観測することを目指した。これまでの画像観測実験の多くは中性分子であり、反射型飛行時間質量分析計(リフレクトロン)を用いた質量選別法にVMI法を適用する点に新規性がある。そのためにはイオンを2回反射する必要があり、イオン軌跡シミュレーションをもとに装置開発を行う必要がある。 【クラスターのペニング電子分光】ペニング電子分光は、準安定励起原子の衝突によって放出される電子の運動エネルギーを測定する実験手法である。本研究で用いるHe*(23S)は19.82 eVの電子励起エネルギーを持つためほとんどの価電子軌道をHe*+M→He+M++e-のようにイオン化することができる。本研究のねらいは、気相中(真空中)のナノクラスターや生体分子の電子構造を研究することである。しかしこれらは極微量であることが多く、従来型の電子分光器では測定できない。そこで感度を向上させるため全電子を捕集することのできる電子分光器を開発した。 【分子線レーザー分光】分子内回転はタンパク質、糖、DNAなどの生体分子の高次構造を決定づける重要な因子であり、これを精密に決定する実験手法や理論的方法は基礎科学として重要である。そこで本研究では、ヘテロ原子や高周期元素が入った場合の分子内回転を明らかにすることを目指し、レーザー分光と量子化学計算と組み合わせた研究を行った。高周期のヘテロ原子は、大きな主量子数を持つため電子の空間分布が広がっているという特徴を有するため、炭素の場合と比較し電子構造の知見を得る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【多重反射質量選別光解離実験】イオン軌跡シミュレーションをもとに反射型飛行時間質量分析計(リフレクトロン)を製作した。この装置には、イオンを反射するための反射電極と、解離レーザーを入射するための石英窓を設置した。これらを超高真空下で動作できるようにターボ分子ポンプと油回転ポンプで排気し、電圧を適切に印可することによって質量スペクトルが測定できることを確認した。この装置は反射せずに質量選別する機能も有している。銅原子にアセトンが配位したクラスターイオンとアルゴンが配位クラスターイオンの質量スペクトルの測定から配位構造を解明することができた。 【クラスターのペニング電子分光】クラスターのペニング電子分光を行ううえでの問題点は、試料の揮発性と濃度である。例えば、多環芳香族炭化水素やアミノ酸の多くの融点は200℃以上であり、クラスターの濃度は原子分子の1000分の1程度である。そこで磁気ボトル効果と阻止電場を組み合させた電子分光装置の開発を行った。特に平成25年度は信号積算回路の整備を推進し、交差分子線の条件下で測定するための準備を行った。機器制御ソフトウェアを用いた積算装置は完成したものの、現在のところ電子が完全に捕集できていないなどの技術的な問題が残っている。 【分子線レーザー分光】セレン原子を有するセレノアニソールについて、分子内回転が非常に起こりやすいことを明らかにし、2量体の存在を指摘することができた。これは液相のラマン分光と紫外可視吸収スペクトルを量子化学計算で解析することから達成された。最終目的は気相で実験を行うことであり、平成26年度はNd:YAGパルスレーザーを修理したうえで調整し、イオン検出による共鳴多光子イオン化の実験を行った。色素レーザーと倍波発生器を本格的に稼働させることができ、研究対象を拡げることができるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
【多重反射質量選別光解離実験】ナノクラスターの構造化学を解明しながら、多重反射を行う新規性を実現させる。触媒や清浄表面への吸着モデルとなる金属分子クラスターとして、銅・チタン・鉄・アルミなどを含む金属分子クラスターを対象とする。そのために、現有のロッド回転機に加えてディスク回転機を開発する。ディスク回転機を導入することができれば、棒ではなく箔で入手できる金属やディスク成形した粉末試料を対象とすることができるためである。また、光解離反応を精緻に研究するため、銅・ジルコニウム・サマリウムなどの金属と希ガスから成るクラスターを生成して実験を行う。本研究で新たに導入した画像観測装置の調整を行い、クラスターの空間密度が広がってしまっている点を解消してVMIの条件を満たす実験を目指す。 【クラスターのペニング電子分光】装置の技術的な問題を解決した後に、分子内回転を有する分子についてペニング電子分光を実施し、分子内回転に伴う電子構造の変化を観測する。ペニングイオン化断面積は、分子軌道が張り出した領域の電子密度に近似的に比例する特徴を利用し、分子表面近傍の電子密度を解明することから電子構造を解明する。同時に装置の調整を進め、平成25年度に準備した交差分子線を生成するための真空装置を接続する。 【分子線レーザー分光】セレノアニソールについて観測できた共鳴多光子イオン化スペクトルを高精度化することを出発点として、気相レーザー分光の手法としての拡張を行い、対象とする分子を広げてゆく。例えば、基底状態の振動構造を明らかにするための分散蛍光スペクトルの測定ができるようにして、セレノアニソール2量体や置換体の分光を行う。気相レーザー分光は分子構造を決定するうえで有効であり、これまでに多くの分子で実施されている。本研究では、クラスター・電子構造・質量分析を共通項として相補的に推進させる。
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Research Products
(6 results)