2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25620016
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
平谷 篤也 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40208856)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 軟X線分光 / 励起三重項 / 有機分子 |
Research Abstract |
本課題研究申請に先立つ予備実験によって励起三重項分子からの軟X線吸収が観測されたアントラキノンに加え、ベンジル、置換ベンズアルデヒドについて、本課題で購入した263nmの高繰り返しパルスレーザー励起で生成する励起三重項分子からの軟X線吸収測定を試みた。まず、固体薄膜については報告のないこれらの分子の基底状態からの軟X線吸収スペクトルを得た。一方、レーザーやLED紫外光源照射による軟X線吸収スペクトルの変化、すなわち励起三重項からの軟X線吸収は、アントラキノンを除く試料では実験的な検出感度以下であった。また、軟X線吸収測定に先立つりん光スペクトル測定によって、ベンジルと置換ベンズアルデヒドの三重項状態はモノマーであるが、アントラキノンではトリプレットエキシマーであることを確認した。 励起三重項分子の検出方法として、軟X線吸収と相補的な関係にある軟X線発光分光を用いる予備実験を進め、アントラキノン固体薄膜の基底状態について、吸収スペクトルに対応する全軟X線発光収量スペクトルと被占有軌道のエネルギー位置に関する情報が得られる軟X線発光スペクトルを得た。 アントラキノン、ベンゾキノンなどのジカルボニル系、および置換ベンズアルデヒド系について、励起三重項状態からの軟X線吸収スペクトルを理論計算によって求めた。どちらの系も基底状態からの軟X線吸収より低エネルギー側に励起三重項状態の励起元軌道空孔への吸収ピークが現れる点では共通であるが、ピークの強度はベンズアルデヒド系では基底状態分子の最低空軌道への遷移と同程度であるのに対し、ジカルボニル系では1/4~1/10に減少するという結果を得た。この様な顕著な軟X線吸収強度の違いの発見は、内殻空孔と価電子軌道の相互作用に関する詳細な知見を得るという本課題の研究目的のひとつに対する大きな成果であり、実験的な検証を進めていく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本課題申請に先立つ予備実験で励起三重項分子からの軟X線吸収を確認したアントラキノン分子の三重項状態がモノマーではなく、純固体に特有なトリプレットエキシマーであることが判明し、軟X線吸収の始状態の帰属が不明確となることから、純固体でもエキシマーを形成しない分子系の探索を行う必要があった。 また、軟X線吸収測定についても、単体では光電子を放出しない基板金属でも有機分子薄膜を付けたことによる仕事関数の低下により、紫外レーザー照射のみで大きなバックグラウンド信号が生じ、励起三重項分子からの吸収が隠されてしまうことが判明し、基板の種類や軟X線吸収の検出方法の変更を余儀なくされた。
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Strategy for Future Research Activity |
純固体薄膜だけでなく、常温で固体の溶媒分子や高分子との固溶体薄膜、自己組織化単分子膜(SAM)への吸着膜での測定を進める。三重項分子の検出感度を向上させるため、基板からの電子放出の無い仕事関数の大きい基板を用いる。 軟X線吸収の検出法として、全電子収量法だけでなく基板からの放出電子の妨害なしに有機分子薄膜の吸収を検出できる軟X線発光収量法を用いる。軟X線発光法では、励起軟X線のエネルギーの関数として全軟X線発光収量を測定することによって軟X線吸収スペクトルを得ることができるだけでなく、励起三重項状態の価電子軌道のエネルギーと対称性を知ることができることから、軟X線吸収の始状態となる励起三重項状態の帰属も可能となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
軟X線吸収測定法の見直しが必要となったため、測定回数が予定より少なく、測定毎に要する消耗品等と今年度に予定していた測定系の改良のための部品等の費用が未執行となった。 翌年度経費は主として測定毎に要する消耗品や測定系の更なる改良の経費であり、今年度の未使用額も同じ目的に使用する。具体的には測定系の改良を優先的に進めたうえで、測定回数を増やす。
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Research Products
(3 results)