2013 Fiscal Year Research-status Report
立体固定型発色団合成を基盤とするフィトクロムの構造と機能の解明
Project/Area Number |
25620028
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
宇梶 裕 金沢大学, 物質化学系, 教授 (80193853)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 合成化学 / 有機化学 / フィトクロム / 生体分子 / 植物機能 / 光スイッチ |
Research Abstract |
本研究は,“植物の眼”ともいえる光受容色素タンパク質フィトクロムの機能を,有機合成化学の立場から解明することが目的である。フィトクロムは,分子量約12万の光受容色色素タンパク質で,赤色領域の光を吸収するフィトクロモビリン(PΦB)などの開環状テトラピロール(ビリン)誘導体を発色団として有し,生理学的に不活性なPr型と活性なPfr型との間で相互変換し,植物の発芽等の様々な調節機能を有している。しかし,これらの発色団は天然からの入手は非常に困難であり,発色団の立体構造と機能の関係は全く不明であった。そこで,「立体固定型発色団の化学合成」というアプローチで発色団の本質に迫り,フィロクロムの機能解明にチャレンジした。特に,酸化的官能基化を基盤とする立体固定型フィトクロム発色団の合成について集中的に検討した。 モノピロール類の位置選択的な酸化的官能基化法の開発を目的に,o- クロラニルによる酸化を検討したところ,ピロール環自身が酸化され,ピロリノン体が選択的に得られることを見いだした。一方,DDQを用いるC環型ピロールの酸化において,側鎖α位の選択的酸化を実現することができた。また,中間体であるアザフルベンに体する求核剤を変化させると,3つの酸化段階を制御することができた。すなわち,酢酸存在下ではアセトキシ体が,メタノール存在下ではカルボニル体が,1,3-ジオール存在下ではエステル体が,それぞれ選択的に得られることを見いだした。 得られた生成物を活用して,15E-anti固定型発色団合成においてこれまで用いていた直線型合成ルートに代え,合成的により効率の高い収束型合成ルートを開拓することにより,生物活性試験供与に充分耐えうるだけの合成の効率化について,検討を行った。その結果,従来はD環上にC環部位を導入して環化していたルートを大幅に短縮できる目処がたつに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ピロール化合物の選択的酸化による高度官能基化法の開発を集中して行った。[1)モノピロール類の位置選択的な酸化的官能基化法の開発,2)ジピロール類の位置選択的な酸化的官能基化法の開発] 1)モノピロール類の位置選択的な酸化的官能基化法の開発を目的に,o- クロラニルによる酸化を検討したところ,ピロール環自身が酸化され,ピロリノン体が選択的に得られることを見いだした。一方,C環(およびB環)ピロールのDDQ酸化により4位のα位が選択的に酸化されることを見出した。興味深いことに,共存する求核剤の種類を変えることにより3段階の酸化状態を制御できることを見いだした。このことによりピロールからの高度官能基化誘導体への変換に柔軟に対応できることになった。スケールアップについても,まだ十分ではないがある程度対応できることも確認した。2位の電子吸引性基としてはトシル基の場合にも,酸化可能であるという知見を得た。次に,得られた生成物を活用して,15E-anti固定型発色団合成においてこれまで用いていた直線型合成ルートに代え,合成的により効率の高い収束型合成ルートを開拓する検討を行った結果,従来はD環上にC環部位を導入して環化していたルートを大幅に短縮できる目処がたつに至った。 2)ジピロールの段階での選択的酸化も可能であれば,立体固定型発色団合成に威力を発揮する。CD環ジピロールのDDQによる酸化によりC環のメチル基が位置選択的に酸化されることを見いだした。架橋可能な足場を有する求核剤をとの置換反応も実現した。今後,別のタイプのCD環固定型ジピロールの合成が可能になると期待できる。メソ位の酸化的官能基化についてもNBSを用いることによりメソ位の選択的酸化が可能であることを見いだした。 以上より,年度当初の計画について,おおむね順調に達成していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
ピロール化合物の選択的酸化による高度官能基化法の開発を引き続き集中して行うとともに,フィトクロム発色団合成の効率的実現を図る。 1)C環(およびB環)ピロールのDDQ酸化により4位のα位が選択的に酸化されることを見出したことに引き続き,得られた生成物を活用して,15E-anti固定型発色団合成においてこれまで用いていた直線型合成ルートに代え,合成的により効率の高い収束型合成ルートを開拓する検討を推進する。特に,CD部位の固定環員数を7員環と8員間を同一の中間体より合成できる手法を確立することにより,CD環部位の固定環員数によりアポタンパク質への取り込み具合を検討する足場を築きたい。またAB環固定型合成への展開も試みる予定である。一方,固定型ジピロールは,分子運動が制約されることから,吸収エネルギーを熱運動ではなく発光の形で放出することが期待できる。そこで,合成した立体固定型ジピロールの物性(特に光物性)について,検討を行って行く予定である。 2)CD環ジピロールのDDQによる酸化によりC環のメチル基が位置選択的に酸化されることを見出したことに基づき,続いて炭素置換基導入について,検討を行う。簡便なGrignard試薬をはじめとして,各種の有機金属試薬について検討する。特に,共存するエステル置換基への影響に気をつける。また,その際,二重結合部位の立体化学が保持されるかどうかが重要であるので,この点についても精査する。架橋可能な足場を有する求核剤をとの置換反応も行い,メソ位立体固定型フィトクロム発色団の合成を目指す予定である。
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