2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25620052
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
磯野 貴之 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (70625631)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 複合物性 / 量子スピン液体 / 量子常誘電 / 強相関電子系 / 分子性固体 |
Research Abstract |
本研究は,電子スピンおよび電気双極子の量子液体状態が共存した『多重量子液体相』を有機磁性体の特徴を活かして実現し,その量子相での新機能性を明らかにすることを目的としている.近年,研究が盛んに行われているマルチフェロイック物質では,磁場誘起強誘電のように単なる強磁性体あるいは強誘電体では見られない特異な電気磁気効果が実現する.一方で,本研究課題が目指す多重量子液体状態では,強い量子効果が支配する新奇な電気磁気効果が期待される. 当該年度は,分子性モット絶縁体κ-H3(Cat-EDT-TTF)2において,量子スピン液体状態が実現しているかどうかを明らかにすることを主な目的とし,希釈冷凍機および精密超伝導マグネットを組み合わせた極低温50 mK,強磁場20 Tまでの磁気トルク測定を行った.測定の結果,対象物質は,反強磁性的交換相互作用の1000分の1という低温においてさえ,磁気秩序を示さない量子スピン液体状態であることを見出した.さらに,低温磁化率が温度に依存しないパウリ常磁性的振舞いを示すことから,本物質の量子スピン液体状態における磁気励起にはギャップが存在しないことも明らかにした. 一般的に,系は低温で自発的に対称性を破って秩序化する(例えばスピン系であれば磁気秩序)ため,単一の量子液体状態を実現することですら難しいと言える.実際,量子スピン液体の候補物質は現在のところ,10個に満たない.本研究では,その希少な例を発見した.次年度は,対象物質において多重量子液体性を探索する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画は,(1)分子性モット絶縁体κ-H3(Cat-EDT-TTF)2における量子スピン液体の探索,および(2)単結晶の純良化・巨大化であった.合成当初の10倍程度の単結晶試料を育成し,この試料を用いて極低温における磁気トルク測定を行い,有機三角格子系において3例目という希少な量子スピン液体状態を見出したことから,本年度の計画は充分に果たせたといえる.研究成果は,国内外において研究発表を行った.次年度になると想定していた学術論文についても,既に投稿中であることから,当初の計画以上に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は,(1)κ-H3(Cat-EDT-TTF)2における量子常誘電の実現,および(2)多重量子液体状態における電気磁気効果の解明,を行う予定である.しかしながら,申請者は平成25年度内に所属変更が生じたため,使用予定であった誘電率の測定機器が手元にない状況となった.したがって,まず誘電率測定システムの構築を行う必要がある.これにより,計画に若干の遅れが生じると考えられる.その代替となる研究として,対象物質において発見した量子スピン液体状態における新奇な量子現象と期待される磁気トルクの低温異常の起源を解明することを狙いとした磁気熱量効果測定を行う予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度中の所属変更によって,研究計画を若干見直す必要があった.年度内に購入予定であった誘電率測定に必要なエレクトロニクス部品や温度計等の購入を次年度にすることにした. 前年度に購入予定であった誘電率測定の際に使用するエレクトロニクス部品や温度計の購入に使用する.
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