2013 Fiscal Year Research-status Report
短鎖脂肪族カルボン酸の触媒的解裂による小分子発生と再構築
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25620087
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
柳 日馨 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80210821)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 脂肪族カルボン酸 / 脱カルボニル化反応 / 反応性小分子 / 一酸化炭素 / エチレン / プロピレン / カルボニル化反応 / Cativaプロセス |
Research Abstract |
小分子発生のための高効率触媒系を探索した。ブタン酸からプロペンと一酸化炭素を発生させる目的で、Ir, Rh, Ru, Ni, Pd, Feなどの遷移金属触媒のスクリーニングを行なった結果、酢酸の工業的製造法であるCativaプロセスに用いられるH2IrCl6/Ru(CO)4I2触媒による系が高い活性を示すことが明らかとなった。この系は、脆弱にして高価であるホスフィン配位子を必要としないこと、また触媒効率も良く、本研究の目的に合致した触媒系といえる。短鎖脂肪族カルボン酸であるブタン酸の触媒的脱カルボニルでは、一酸化炭素とプロペンの発生が効率良く生起することを確認できた。また長鎖脂肪酸でも反応は良好に進行し、一酸化炭素の発生とともにアルケンが生成した。また本年度においては一酸化炭素の発生及び消費を同時に行なう移動型カルボニル化反応の開発に取り組んだ。予備実験としてH型のツインチューブを用い、一方のチューブにギ酸に濃硫酸を加えることにより一酸化炭素を発生させ、もう一方のチューブでPd触媒によるアミノカルボニル化反応を検討した。その結果、良好な収率でカルボニル化生成物を得ることに成功した。つづいて、このH型のツインチューブを用いる移動型カルボニル化反応を、脂肪族カルボン酸のIr触媒による脱カルボニル化による一酸化炭素の発生とつづくPd触媒によるカルボニル化を試み、その進行を確認した。また、非晶性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂をフィルター膜として検討した結果、ギ酸/濃硫酸法により発生させた一酸化炭素が膜透過を起こすことを確認した。また本系による二層管型のフロー系移動カルボニル化にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では安価で容易に入手可能な脂肪族カルボン酸を用い、触媒的な分解反応により一酸化炭素、エチレン、プロピレンといった反応性小分子の極めて簡便な発生法とこれを即座に有機分子に取り込む触媒反応を共に検討し、on demand on site型の合成反応システムのモデル構築を目的としている。平成25年度においては、脂肪族カルボン酸の効率的脱カルボニル化反応を検討した結果、Cativa型Ir触媒が極めて高い触媒活性を示すことを見出した。この効率触媒系の発見は、脂肪族カルボン酸の分解反応を基盤とし、本研究の反応性小分子の発生が十分に実施可能であることを担保するものである。実際に炭素-炭素結合形成反応のモデルとして移動型カルボニル化を検討し、有望な結果を得ることができた。よって次年度に他の一酸化炭素導入反応を引き続き検討することにより、on demand on site型のカルボニル化反応システムの構築へと導くことができるものと考えている。また、PTFE樹脂膜による一酸化炭素の分離を伴う移動型カルボニル化反応にも成功した。これらの研究では実験の効率化の観点からギ酸・硫酸法を用いた一酸化炭素の発生に力点をおいたが、低分子源を脂肪族カルボン酸に移行する準備は整っている。次年度では、エチレンやプロピレンなどの小分子の発生とこれと連動した反応への活用に力点を移す計画であるが、本年度に得られた研究の達成度は十分に満足のいくレベルであり、次年度に向けて本研究は順調に推移して行くものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ブタン酸からのプロピレン発生につづき、プロピオン酸の触媒的脱カルボニル化によるエチレンの発生法についても検討すると共に、発生させたエチレンやプロピレン等の反応性ガスを即座に合成反応に導入する手法の開拓に重点をおく。ここではまず発生させたアルケンを臭素付加により、気体から液体に変換し、その反応効率を調べる。つづいてシクロへキセノンとの光[2+2]付加環化反応をモデル反応として実施検討する。これと並行してアルケンと一酸化炭素の膜分離に取り組む。すなわち、特性の異なる複数のPTFE分離膜を用いて、ガス分離が可能となる系について検討を行う。分離成功後には一酸化炭素とアルケンとをそれぞれ別の反応に活用するパラレル型合成系の検討を行なう。また、分離が困難な場合には、一酸化炭素とアルケンが逐次型反応により、活用される系について検討を加える。さらに、ブタン酸の分解過程において生成するプロピレンと一酸化炭素を即座に共重合させ、ポリケトン合成を試みる。ラジカル共重合反応系と遷移金属触媒による共重合反応系を併せて検討し、最適系を見出すものとする。本反応が達成されるなら、全体の変換過程としてはカルボン酸のケトンへの変換であり、その結果「原子効率型移動カルボニル化反応」としての新しい概念を提出することができることとなる。また、小分子発生法をアセチレン類の発生にも挑戦する。具体的にはアクリル酸を用いてアセチレンを発生させる触媒的脱カルボニル化反応を詳細に検討する。この反応ではアシルメタル錯体の形成と脱カルボニル化によって生じるsp2炭素―金属種からのβ-水素脱離が鍵となるが、ビニルメタル種からのβ水素脱離はアルキルメタル種よりはその速度が緩慢と考えられ、反応を生起させるためには競争する還元的脱離に優先させるための配位子や反応条件の工夫が必要であり、鋭意新規触媒系を精査するものとしたい。
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Research Products
(5 results)