2013 Fiscal Year Research-status Report
ポリマー鎖に沿って物質が輸送される現象の1分子動態イメージング
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25620096
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
篠原 健一 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 准教授 (10292244)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 1分子イメージング / 高分子モーター / らせん高分子 / 高速AFM / 熱ゆらぎ / 拡散係数 / PIV / 分子動力学 |
Research Abstract |
既に研究代表者は、コレステリル基をパラ位に有する置換フェニルアセチレンポリマー[(-)-poly(ChOCPA)]のキラルらせん高分子鎖の上を物質が輸送される「分子歩行」現象を発見した。本研究では、この輸送原理の解明を目指し、当該年度において以下の実績を上げた[高分子 62, 673-674 (2013)]。 (1)ポリマー1分子の動態解析:MSD-Δt法による解析でポリマー鎖に沿って輸送される物質の拡散係数の計測に成功し(特許出願中)、ポリマー鎖上を運動する分子がアインシュタインのブラウン運動の法則に従うことを実証した。 (2)シミュレーションによるモデル構築:動的安定構造をシミュレーションして物質輸送のモデルを構築する目的で、分子動力学(MD)計算を実施したところ、200量体のらせんポリマー鎖(レール)上に配置した20量体のらせんポリマー分子(歩行分子)がn-オクチルベンゼン中で相互作用し会合するダイナミクスが確認された。歩行分子がレール表面と噛み合うように相互作用する高次構造の形成過程が示された。 (3)溶媒流のPIV解析:既に我々の研究によって、ポリマー鎖の周囲に溶媒流が発生する現象が確認されている。本研究では、この現象を精度良く解析するため、被輸送体としてフラーレン分子を添加して高速AFMイメージング実験を実施した。このナノ粒子は、動画解析法の一種であるPIV法におけるトレーサー粒子として機能する。PIV解析の結果、ポリマー鎖周囲の溶媒流の可視化に成功し、ポリマー鎖がその形態によって、周囲の溶媒の運動を制御することが確認された。この溶媒流が分子歩行の駆動源の一つとして働いているものと考察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は、以下の要点のとおり順調に進展している。 (装置改造)観測温度を制御しながらポリマー鎖の動態をAFMイメージングするためには、試料溶液セルを改造し、加熱および冷却機能を付与する必要があるので、当該年度において先ず装置改造を実施しこれを完了した。 (動態解析)現在、溶液セルを温調しポリマー鎖の動態イメージングを進めている。さらに、ポリマー鎖一本の動態解析法(特許PCT出願済)を考案し、これを適用して拡散係数を計測することに成功した。 (シミュレーション)また、らせんポリマー鎖の観測溶媒であるn-オクチルベンゼン中300Kの条件で分子動力学計算を行った結果、実測の分子歩行現象を説明できる表面構造がシミュレーションできた。 (PIV解析法)また、ナノ粒子(フラーレン誘導体)を微量添加してポリマー鎖一本の動態をイメージングした。ナノ粒子がトレーサー粒子として機能し、PIV法によってポリマー鎖の周囲の溶媒流を可視化することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの知見をフィードバックして動態観測条件を最適化した 1分子動態イメージングによる変位計測で、物質輸送の特性(拡散係数、方向性、相互作用エネルギーなど)をシミュレーションを組み合わせて精査すると共に、より信頼性の高い物質輸送モデルを構築する。 【物質輸送方向の制御】キラルらせんポリマー鎖の物質輸送能は既に確認されているが、ポリマー鎖に分岐が有る場合、鉄道のレールのポイントの様に分岐点で輸送方向を切り替える働きは有るであろうか?環境刺激などによって分岐輸送方向の制御の可能性を検証するために、分岐を有するキラルポリ置換アセチレン(合成は既に完了。分岐構造の存在はAFMで確認済)の1分子動態イメージングを実施する。そして得られた知見を踏まえ、分岐構造などの高分子設計に基づいた物質輸送能の制御を試みる。 また、らせん鏡像体のキラルポリ置換アセチレン、即ち、巻き方向が逆のらせん分子鎖を添加して相互作用動態を観測する。これら一連に研究によって、溶媒と基板表面の性質を含むシステムとしてのポリマー鎖の運動特性の理解が深化し、物質輸送特性の制御、即ち、本来ランダムであるブラウン運動による動力とポリマー鎖による運動制御を利用して、望みの方向に物質を移動させる方法論を獲得する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予算の効率的執行により、端数程度の未使用額が生じた。 平成26年度配分額と合わせて、消耗品等の購入に充当する。
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