2013 Fiscal Year Research-status Report
ICP発光分光分析法のための環境にやさしい高感度化技術の開発と応用
Project/Area Number |
25620118
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Fukui University of Technology |
Principal Investigator |
田中 智一 福井工業大学, 工学部, 教授 (40236609)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 誘導結合プラズマ / 静電シールド / ICP-AES / ICP-MS / バックグラウンド等価濃度 / 高感度化 / 環境分析 / 材料分析 |
Research Abstract |
【シールドの形状に関する検討】 ICP発光分光分析法(ICP-AES)において,スリットの入ったシールドを接地できるようにリード線の取り付けやスイッチの挿入などの改良を施し,感度等への影響を検討した。シールドを接地することによって,目的元素およびバックグラウンド(BG)のいずれも発光強度が低下したが,Li,Mo,Tl,Sb,Seについては特にBGの強度が大きく減少した。このため,バックグラウンド等価濃度(BEC)で分析特性を評価したところ,通常のトーチの場合に比べてBECを4から10倍程度向上させることができた。これらの元素においてBG強度が著しく減少する理由を調べるため,プラズマの半径方向における発光強度のプロファイルを測定した。その結果,シールドの接地の有無によらずプロファイルの形状はほぼ同じであった。このことから,BG強度の減少はプラズマの形状の変化によってもたらされたものではないことが分かった。 【シールド素材の影響に関する検討】 ICP質量分析法(ICP-MS)においてスリットの入っていないシールドを使用し,目的元素やアルゴン分子イオンなどに及ぼすシールド素材の電気伝導率や組成の影響を調べた。目的元素とBGの信号強度の比(SB比)の向上には電気伝導率が低いほうが望ましいが,ただ低ければ良いわけではなく,シールド素材に適した値があることが分かった。また,シールド素材の組成については,Cの含有率が低い鋼種(SUS304およびSUS316L)を用いると,高周波電力の低下に伴ってBGイオンの強度が減少した。特に,SUS304は純正に比べて目的元素(Fe)のSB比が約5倍向上した。純正の代わりにSUS304製シールドを用いると既存の装置を高感度化できるだけでなく,純正の200分の1程度のコストで作製できるため,費用削減の面においても有用であることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の目標の一つとして,シールドの形状の最適化を試みることを挙げたが,この点についてはシールドを接地できるように改良を加えた。その結果,バックグラウンド(BG)強度が大きく低下し,Li,Mo,Tl,Sb,Seのバックグラウンド等価濃度を通常のトーチの場合に比べて約4から10倍向上させることができた。さらに,分光学的な手法によってプラズマの半径方向における発光強度のプロファイルを測定し,シールド接地時のBG強度の著しい減少がプラズマの形状の変化によってもたらされたものではないことを明らかにした。また,シールドの素材による影響については,ICP-MSを用いて検討を行った。電気伝導率や組成の異なるシールド素材を用いて影響を調べた結果,シールド素材として適した電気伝導率があることやCの含有率が低い鋼種(SUS304およびSUS316L等)がシールド素材として適していることを見出した。以上のように,当初目標としていたシールドの形状による感度向上およびシールド素材の影響について,一定以上の成果を得ることができた。しかしながら,スリットシールドの適用によるICP-AESの感度向上のメカニズムに関しては,感度向上がプラズマの形状の変化によるものではないというメカニズム解明の一助を得たものの,必ずしも十分とは言えないことから,現時点における研究目的の達成度として上記の区分とした。
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Strategy for Future Research Activity |
【スリットシールドの適用による感度向上のメカニズムの解明】 スリットシールドの適用によるICP-AESの感度向上のメカニズムについて,必ずしも十分に解明することができなかったことから,平成25年度に引き続いて検討を行う。その手法としては,分光学的なプラズマ診断法等を利用してプラズマの温度測定を行い,シールドとICPの状態との因果関係を明らかにしていく。また,ICP-MSにもスリットの入ったシールドを適用し,感度および2次放電に及ぼす影響を調べる。この結果とICP-AESの結果とを相補的に比較することにより,シールドの適用によるICP-AESの感度向上のメカニズムを解明する。 【既存の装置への適用と有効性・汎用性の実証】 平成25年度の成果と今後得られる知見に基づいて,10倍以上の感度向上が達成できるスリットシールドを設計・試作する。試作したシールドをいくつかの異なるメーカーの装置にも適用し,有効性・汎用性を実証する。 【実試料分析への応用】 スリットシールドを装着したトーチを用いて,金属材料や環境試料を実際に分析し,共存元素の影響や耐久性などを調べ,スリットシールドの実用性を確認する。 【研究成果発表ならびに総括】 研究成果を国内の関連学協会ならびに国際会議で発表するとともに,学術雑誌に投稿する。加えて,申請年度内に得られた研究成果の総括を行う。
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