2015 Fiscal Year Annual Research Report
結晶構造中にかご状空間を有する「ラトリング」酸化物熱電材料の開発
Project/Area Number |
25620152
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大瀧 倫卓 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (50223847)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | β-パイロクロア型酸化物 / かご状結晶構造 / ラトリング / フォノン散乱 / 熱伝導率 / 熱電変換材料 / 非調和振動 / ラマンスペクトル |
Outline of Annual Research Achievements |
β-パイロクロア型酸化物AB2O6は、大きなかご状の構造中に小さなAカチオンが内包された結晶構造を持つ酸化物で、内包原子の非調和振動が超伝導を誘起するとして注目されているが、熱的特性や導電率の向上など、熱電特性に関する知見は乏しい。最終年度となる本年度は、酸化物としては極めて低い格子熱伝導率の起源を明らかにするとともに、導電率の増大による熱電性能の向上を主な目的とした。 かご状構造骨格中のBサイトに3価カチオンを含む場合に比較的高い導電率が得られるという傾向を見出したため、BサイトにFe3+を持つAFe0.33W1.67O6 (A=K, Rb, Cs、以後それぞれKFW、RFW、CFWと略記)を合成し、結晶構造や熱電特性、振動スペクトルを検討した。リートベルト解析による結晶構造の精密化から、CFWのAサイトカチオンであるCs+はかご状構造の中心位置である8bサイトを占めるのに対し、RFWやKFWではAサイトカチオンが8bサイトから<111>方向に偏位した32eサイトを占めていることが明らかになった。室温でのラマンスペクトルの測定から、どの試料も100cm-1以下の低波数域にラトリング振動だと報告されている並進運動モードに帰属されるピークを持つことから、既に報告したATaWO6と同様にラトリング現象を示すことを明らかにした。 この結果に呼応して、熱伝導率は室温で1 W/mK以下という、酸化物としては極めて低い値が得られた。一方、導電率の値は10-2 S/cmのオーダーとまだかなり低く、最大の出力因子はRFWの2.2×10-7 W/mK2であった。結果として得られた無次元性能指数ZTは2.6×10-4とかなり小さく、熱電特性の一層の向上が望まれる結果となった。しかし、ATaWO6と同水準あるいはそれ以下の熱伝導率を示しつつ、導電率を2桁以上向上できたことは、この物質系において熱伝導率と導電率の独立制御が可能であることを示しており、かご状構造酸化物で熱伝導と電気伝導がデカップルできることを証明した。
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