2013 Fiscal Year Research-status Report
一分子蛍光観察技術を応用した高分子摩擦・摩耗分子メカニズムの探求
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25630038
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
澤江 義則 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10284530)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | トライボロジー / 高分子 / 摩擦 / 摩耗 / 移着 / 全反射蛍光顕微鏡 |
Research Abstract |
平成25年度は,全反射蛍光顕微鏡(TIRFM)の観察ステージ上に設置可能は小型ピン・オン・プレート型往復動摩擦試験機の開発を進めるとともに,高分子材料が摺動時に相手面上に転移膜を形成するプロセスをTIRFMシステムを用いて観察するために必要な情報を収集,整理した.加えて,ミクロからマクロなスケールにおける転移膜形成量の定量的評価手法について,検討を行った 小型ピン・オン・プレート型往復動摩擦試験機については,設置予定の顕微鏡観察ステージの寸法に合わせ試験機各部の詳細設計を行い,必要な機械部品等を調達し現在最終組み立ての段階にある.当初の予定を変更し,摺動時の周囲雰囲気を制御できるよう,試験部を簡易チャンバーに納めるよう,仕様の変更を行った. TIRFMを用いて転移膜形成を観察するためには,高分子材料自体が自家蛍光を有する必要がある.そこで,樹脂摺動材として一般に用いられる四フッ化エチレン(PTFE)と超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)に加え,強い自家蛍光が期待できるポリイミド樹脂,ポリスチレン樹脂について,既存の摩擦試験機を用いて金属表面との摺動試験を行い,形成された転移膜の蛍光特性を評価することを試みた.しかし,PTFE,UHMWPEは,ともに顕著な転移膜の形成が認められるものの,自家蛍光はほとんど認められず,そのままでは今回の実験に使用することが難しいとの結論に至った.またポリイミド樹脂は耐摩耗性が高く,転移膜の形成には大きな荷重が必要であった.また一方,ポリスチレンについては機械的特性が劣るため,他と同様の条件下での摩擦試験が困難であった. 転移膜形成量の定量評価法については,導入したFTIRにより得られた吸収スペクトルからマクロな転移膜量の評価が可能であることを確認した.また分光エリプソメトリーを用いることにより,転移膜の厚みについて定量評価が可能であった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定から,小型ピン・オン・プレート型往復動摩擦試験機の開発に遅れが生じている.その主な原因は,摺動試験時の周囲雰囲気を制御可能とするよう,試験機の仕様変更を行ったことにある.これは,研究計画書提出後に行った研究室内の他の課題において,高分子材料の摩擦・摩耗特性に対する周囲雰囲気の影響について非常に興味深い結果が得られたことから,本研究においてもそのメカニズムの探究に寄与することが必要と判断されたためである.この変更により,摩擦試験部を簡易チャンバー内の限られたスペースに納める必要が生じ,そのための設計変更に時間を要した. TIRFMによる観察のための試験片材質の選定に時間を要している.当初から自家蛍光特性を持ちつつ,PTFEやUHMWPE同様の転移膜形成挙動を示す材質の選定には時間を要すると予想されていたものの,現状にてまだ解決策を見いだしていない.しかし今後の検討方針は2つに絞っており,一つはPTFEを母材とする複合材に蛍光色素を添加する方法,もう一つはポリイミド系樹脂で弾性率の比較的低い材料を選定するとともに,摺動試験時の荷重を増加可能とするよう,試験機の仕様を検討する予定である. 転移膜形成量の定量評価手法については,概ね予定通りの成果が得られているが,AFMを用いたミクロスケールにおける転移膜厚さ,および転移膜量(体積)評価の検討が平成25年度中に実施することが出来なかった.その一因は,予備試験において形成された転移膜量が比較的大きく,AFMでの測定には過大となったためである.これについては,条件を変更した追加の予備試験により対応する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
前項でも述べたとおり,TIRFMによる観察のための試験片材質の選定を早期に進める必要がある.これまでの検討で,蛍光色素を添加したPTFE系複合材の使用,あるいはポリイミド系樹脂を用いるための試験機使用の変更の2つに方針を絞っており,まず蛍光色素添加PTFEの検討を進める.これについては,協力企業に依頼し蛍光色素添加PTFEを試作予定である.また平行して,ポリイミド系樹脂での摩擦試験について,可能な試験条件を再度検討する.試験片材質の検討は7月までに終え,8月からは実際にTIRFMシステム上での摩擦試験を行うよう,試験機の準備を進める.この摩擦試験では,相手面の粗さに加え,雰囲気ガスの組成(ガス種,含有水分量,含有酸素量)について,転移膜形成と摩擦・摩耗挙動への影響を評価する. 転移膜形成量の定量的評価手法については,FTIR,分光エリプソメトリーに加え,AFMによる評価手法を確立し,ミクロからマクロスケールまで,転移膜量と転移膜厚さについて定量的な情報を得ることを目指す.また転移膜の構造については,学内に新たに導入されたイメージングFTIRと顕微ラマン分光装置のマッピング機能の利用を検討する. 上記の実験および分析結果より,樹脂複合材の摩擦・摩耗メカニズムについて得られた知見を整理し,機械摺動部における高分子摺動材料の選定および設計に資する提案を検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
TIRFMシステムの観察ステージ上での摩擦試験に用いる試験に必要な,自家蛍光を有する高分子材料試験片の選定が年度内に終わらず,実験が実施できなかった.そのため,試験片購入費用が未使用となった.摩擦試験機についても,試験片取り付け部周辺の製作が未完了であるため,その部材費および加工費が未使用となった. 試験片の未完成部については,平成26年度7月までにすべて完成する予定であり,関連する支出もそれまでに行われる予定である.高分子材料試験片の材質についても,7月中には最終決定を予定しており,決定次第試験片として発注する予定である.これにより,次年度使用額はすべて使用される予定である.
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