2013 Fiscal Year Research-status Report
量子・分子論に基づいたナノ流動構造制御による高耐劣化性高分子電解質膜の理論設計
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25630044
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
徳増 崇 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (10312662)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 燃料電池 / プロトン輸送 / 分子動力学法 / 高分子電解質膜 |
Research Abstract |
平成25年度は、まず量子化学計算を用いた水素原子ホッピング特性に関する大規模データベースの構築を行った。系を構成する電解質膜としてはNafionを基本構造とした。この分子のポテンシャルおよびプロトンのホッピング特性に関しては既にモデルが構築されているため、今年度はOHラジカル-水分子間における水素原子(H)のホッピング時のエネルギー障壁を求めた。具体的には様々な相対距離、分子配向における1対のOHラジカル-水分子のエネルギーを量子化学計算により求め、このポテンシャルモデルを構築するための参照データベースを作成した。またOHラジカルとNafion分子、水分子、オキソニウムイオン間のポテンシャルエネルギーの情報も取得した。エネルギー状態の量子力学計算には第一原理電子状態計算プログラムDMol3およびGaussianを用いた。その結果、数多くのデータ点についての計算結果が得られ、この輸送シミュレータで用いるポテンシャルモデルの構築をスムーズに行うことができた。 次にこのデータベースを用いて輸送シミュレータで用いるポテンシャルの構築を行った。 OHラジカルとNafion分子、オキソニウムイオン、水分子の分子間ポテンシャルには、高分子の水和状態をよく表せるDreiding Force Fieldを用い、そのパラメータは上記の量子化学計算により得られたデータベースの結果をよく再現できるように決定した。OHラジカル-水分子間の水素原子のホッピングはEmpirical Valence Bond (EVB)法により考慮し、そのパラメータは量子力学計算により得られたホッピングの際のエネルギー障壁を再現できるように決定した。これらのシミュレータが構築された後、計算系の構築およびシミュレータの最適化・並列化を行って、高速かつ妥当な計算が行えるシミュレータを作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、申請書に記載してある課題を十分に行うことができた。具体的には量子化学計算を用いた水素原子ホッピング特性に関する大規模データベースの構築を行ことができた。その計算には計算の安定性を保証するために若干の手続きが必要であったが、本来の計画に対して大幅に遅れることなく課題をクリアすることができた。また、データベースを用いた輸送シミュレータで用いるポテンシャルの構築に関しても、かなりポテンシャルの性質が解析関数で置き換えやすいものだったので、プロトンー水間のホッピング現象の際の知見も有効に活用することによって比較的スムーズにポテンシャルの構築を行うことができた。また、プログラムの最適化・並列化に対しても、今までの経験や知見を活かすことにより比較的順調にシミュレータ作成を行うことができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度までの課題でシミュレータが完成したので、平成26年度はこのシミュレータを用いて、まずプロトン、OHラジカルの輸送速度に影響を及ぼす水クラスターの構造因子の特定を行おうと考えている。具体的には平成25年度に構築したシミュレータを用いて、電解質膜内のプロトン、OHラジカルの輸送現象をシミュレートし、各分子種の拡散係数を求めるとともに、水クラスターの構造を定量的に表現できる特性量を定義する。特性量としては、(1)オキソニウムイオン近傍の水分子の数および配向(分子の向き)、(2)水分子の水素結合により形成される一連のネットワーク構造の長さ、(3)水分子の酸素原子周りの水素原子の動径分布関数を考えている。この計算を、温度、圧力、含水率(水分子の数)を変化させて行い、これら特性量の変化と拡散係数の変化の関係についての知見を得る。これらの結果から、水クラスターの構造を表現する特性量の中で、プロトンやOHラジカルの輸送現象に大きく影響を及ぼす因子を特定する。 次にプロトン伝導性、耐劣化性能に優れた高分子電解質膜の特性の提案を行う。具体的には高分子電解質膜の特性を変化させて上記の計算を行い、水クラスターの微細構造がどのように変化するかを解析する。変化させる電解質膜の特性は(1)電解質膜の親水基の分子種や電荷、(2)電解質膜の剛性、(3)電解質膜を構成している分子鎖の構造(分子鎖の間隔、側鎖の間隔(EW値))を考えている。これらの知見から、プロトン伝導性、耐劣化性能に優れた電解質膜が有する特性の提案を行い、シミュレーションにより提案されたプロトン伝導膜のプロトン伝導性、耐劣化性能の評価を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は量子化学計算を用いた水素原子ホッピング特性に関する大規模データベースの構築、輸送シミュレータで用いるポテンシャルの構築および計算系の構築およびシミュレータの最適化・並列化を行ったが、これらはすべて流体科学研究所のスーパーコンピュータシステムで順調に計算が行え、そのため予想していたよりも計算量が少なくてすんだ。しかしながら、パラメータを変化させたときの影響などについては、計算ができていないため、次年度に予算を持ち越して大規模計算を行おうと考えている。 平成25年度は比較的順調に研究が終了したが、パラメータを変化させたときのシミュレータの安定性についてはまだ検証できていないため、まずはその点について解析を行う。その後に、平成26年度の課題として申請書に記載した、プロトン、OHラジカルの輸送速度に影響を及ぼす水クラスターの構造因子の特定およびプロトン伝導性、耐劣化性能に優れた高分子電解質膜の特性の提案を行う。これらの研究を行うため、平成26年度請求額と合わせ、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。
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Research Products
(7 results)