2013 Fiscal Year Research-status Report
絶滅生物のバイオメカニクス―未知なる形の機能性を探る
Project/Area Number |
25630047
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
椎野 勇太 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (60635134)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | バイオメカニクス / 層位・古生物 / 進化 / 生物物理 / 流体 / 流体工学 / 最適設計 / CFD |
Research Abstract |
腕足動物の多くは、海底で殻を開いた状態でじっと待ち、自動的に殻の内側を通り抜ける水流を利用して、濾過摂食や呼吸を行う非活発な海洋生物である。したがって、周囲に生じる流れの強弱に依存しない安定した水流形成が、生命活動を維持するための鍵となる。そこで、ペルム紀前期の高速流水環境に適応を遂げたパキシルテラを題材に、殻模型を用いて流水実験を行った。 殻が備えた機能特性を実験の結果から読み解くと,化石の産出状況が示す実際の生息姿勢が、流体力学的に最も不安定であった。一方、自動的に殻の内側を通り抜ける水流を可視化すると、実際の生息姿勢は、殻まわりの流向や流速に関わらず、安定した渦流を形成することができた。パキシルテラを含む翼形種は、殻の内側に螺旋状の濾過器官を備えている。これと同調する渦流が形成されることで、エサの濾過効率を高めることができたと考えられる。また、開閉具合の異なる模型を用いた実験した結果、高速流体環境下では殻の開度を狭くし、渦流をより安定に制御できたことを示唆する。殻形態の備えた姿勢の安定性および自動的水流形成の機能が両立することによって、高速流水環境へいち早く進出かつ適応できたと考えられる。 自動的な濾過水流の形成能力は、殻の正中線上に沿う湾曲部の圧力差発生機能によることがわかっている。そこで、翼形種に特徴的な湾曲部の発達具合と、殻全体の長さと幅を計測し、座標空間上にマッピングした。その結果、翼様の外形が強調されるように殻全体の幅が大きくなるにつれて、湾曲部の発達具合が隠微になることがわかった。つまり湾曲部と翼は二律背反の形態的傾向を示しており、適応環境に応じて異なる機能戦略を備えた殻形態へと進化した可能性が見えてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、絶滅生物の不思議な形に新しい技術的な着想を求める萌芽研究として,腕足動物が殻形態に備えた自動的な水流形成機能と,形態的な多様度との関係をバイオメカニクスの視点から理解することを目的としている.当該年度は、きわめて特異的な流体環境に適応した腕足動物スピリファー類の1種を用いて、自動的に生み出される水流の制御様式を明らかにした。さらに、当該グループの形態測定を行うことで形態的傾向を明らかにし、適応環境に応じた機能戦略が存在する仮説を導いた。一連の成果を考えれば、当初の予定通りおおむね順調に進展したといえる。次年度以降は、流体解析を行うことによって、さらなる機能性の追求を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究成果を踏まえ、スピリファー類の渦流形成に関る形態機能がどのように最適化されていたのか明らかにし,周囲の流れを生物自身のエネルギー摂取へと巧みに利用する機能形態学的な適応システムの解明を目指す.そこで次年度は,流水実験で用いた形態 モデルから流体解析用の解析モデルを作成し,流体解析によって殻まわりの流れ場を検討する.流水実験用に製作した殻形態モデルをもとに,X線マイクロCTの撮像を行い,連続断層画像を取得する.この連続断層画像を用いて3次元復元したのち等値面処理を処方し,殻形態モデルの表面データを数値化する. 年間ライセンス取得予定のソフトウェアクレイドル有限体積法流体解析ソフトSCRYU/Tetraを用いて,非定常乱流解析を行う.3次元流体解析が可能なSCRYU/Tetraは実測値と整合性が良く,本研究の目的に適している.3次元モデルを平らな底面に固定した十分広い直方体領域を解析領域とし,スピリファー類の腹殻および背殻側から,流入速度0.01 m/sから1.0 m/sまで計5通りを解析する.初年度に得られた実験結果と比較し,解析の精度や妥当性を評価する.
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