2013 Fiscal Year Research-status Report
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25630257
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤井 恵介 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50156816)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 耕一 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30349831)
角田 真弓 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 技術専門職員 (20396758)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 図面 / 指図 / 絵図 / 五山十刹図 |
Research Abstract |
本研究は、日本の中世・近世の建築図面(多くは指図と呼ばれる)を対象とする。従来、建築図面は過去に実在したが現在は失われてしまった建築の形態を知るための有力な情報源として利用されることが多かった。本研究では、特に注目される建築図面を取り上げ、その性格を、「建築→図面」「図面→建築」、という建築と図面を制作する時の二つ方向の行為と関連付けて、そのために必要とされた「図化の技術」を具体的に解明することを目的とする。それによって、建築史研究において、建築図面の利用価値を格段に高めることが出来ると考えている。 本年度は、中世の禅宗寺院に伝来した五山十刹図を中心に検討を加えた。この図は、東福寺、大乗寺などに伝来しており、中世の禅宗の建築、什物などを知るための絶好の史料であるのだが、その性格を十分に解明することができなかたので、その価値が判らなかったのである。 研究の検討の結果、以下のようなことが判明した。図面の中に、行事を記した図と、建築・什物を描いた図の二種類があって、特に建築・什物の図に高い価値を認めることができること。この図は、図法、描かれた内容から、中国、日本を含めた東アジア全体の図面作成技法を解明することのできる、重要な点をいくつも含むことが判明し、その高い価値を評価することができた。 また以上の研究に並行して近世・近代における日本国内および外国で生産された図面、絵図、地図の研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
五山十刹図の東福寺本と大乗寺本を比較検討し、東福寺本がより初期の内容をもつことを確認した。 図面には、数種類の成立過程の異なる図が含まれることを確認した。1は、碑、額などを正面から描いたもの。2は、仏教寺院の伽藍を描いたもの(伽藍図)。3は、建築の立面図を描いたもの。4は、建築の断面図、部分図を描いたもの。5は、什物を描いたもの。5は、行事を描いたものであり、舗設図、座の配置図と呼べるもの。6は、建築をフリーハンドで描いたもの。以上の6種類である。 次に図の作成されたプロセスを確認した。中国で行われていた宗教的実態を日本に伝達するために、どのような図化を試みたかという分析である。1は、中国で成立していた図を、書写したもの。2は、中国に存在していたモノを図化したもの。恐らくこの二つの方法で、五山十刹図の全図は構成されている。十分に検討すべきは2の事例である。大変に興味深いのは、実寸が書き込まれていることであって、しかも日本語の寸法の物があることである。それゆえ、モノ→図、というプロセスが、中国国内で実現していたものと、日本人が試みたものと、双方が含まれることが判明する。 このような分析を通して確認できたことは、建築・什物といったモノを描いた図と、行事関連の図の双方が含まれていることである。日本に現存する中世の図面は、建設関連の図は僅かであって、多くが行事図であり、その意味で建築・什物の図がふくまれていることは特筆に値する。同様の図面は、中国国内においても、『営造法式』などに限られていて、図法を含めて、東アジアの建築文化の在り方を検討するに、非常に高い価値を認めることができる。 詳細な検討の結果、以上のような価値を認めることが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
立体を平面図として表現する、という技法を中心に研究を進めることとする。建築の図面は、再現性もしくは出来上がりを予測する、という点において、最も重要な内容を持つように、仕組まれていると推定できるからである。 日本におけるその代表的な例には、茶室の起し絵図がある。 (1)起し絵図について、実物検討と撮影 実物の調査(東京国立博物館、大阪すまいのミュージアム)の撮影を実施する。作図技法も調査するので、実物の観察も重要な要素である。(既に刊行されている堀口捨己『茶室起し絵図集』(1963~65)は、東京国立博物館に所蔵されている図面のかなり忠実な復刻が中心である。) (2)図面の調査と分析、図面の作成技法の調査。図面の分類、それぞれの図化の技法の調査。実際の茶室との対比調査。茶室起し絵図では、立体の再現性の検討が重要な課題となる。例えば、縁、床の高さをどのように図化するのか、絵図ごとに多様なバリエーションがある。他の技術についても整理し、起し絵図特有の図化の技術を、解明する。 (3)類似の図面との比較、近世の普及形式であった、中井家文書のなかの図面群(17-19世紀、日本)と比較して、その特質を検討する。 (4)西欧、アジアとの比較検討、西欧、アジアに、同種の図面を探す。立体絵本、紙製のミニチュアなどにまで視点を広げる必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
五山十刹図の実見、写真撮影に関して、所有者側との調整が整わず、結果的に当初予定していた調査、撮影を行うことができなかった。 2014年度中に実物調査および撮影が行えるよう、既に調整を始めている。
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