2013 Fiscal Year Research-status Report
プロトン伝導性ガラスファイバーのナノ先鋭化による局所H+注入技術の開発
Project/Area Number |
25630286
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
大幸 裕介 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70514404)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | プロトン伝導 / イオン電流 / イオン銃 / ガラスファイバー / リン酸ガラス / 燃料電池 |
Research Abstract |
本研究では、プロトン伝導性ガラスをファイバー化し、さらにその先端を先端径100 nm程度まで先鋭化して電界を印加することで、既存のイオン銃の被照射領域(1~20 mm程度)と比較して1000分の1以下である100 nmオーダーの局所域にのみプロトン(H+)を任意量注入可能な新しいH+注入技術を3年間で開発し、またH+注入による物性変化を実証する。初年度はガラスファイバーの作製およびその先鋭化について実施した。組成探索により、直径1~1.5 mmで均一なプロトン伝導性ガラスファイバーが得られた。またフッ酸/有機溶媒を利用したメニスカスエッチング法により、ファイバーの先鋭化を検討した。フッ酸濃度および浸漬時間を様々に変化させて実験を行い、現在は先端断面積 1平方マイクロメートル以下を達成している。バルクガラス(~1 平方センチメートル)と比較して、先鋭化することで電界集中し、より高いイオン電流が得られるものと期待される。イオン電流計測用のチャンバ-も完成し、来年度以降計画通り電界印加に伴うプロトン放出の実証を進める。電子の電界放出とは異なり、特にH+をガラスファイバー先端から真空中に放出させる点およびその実証は最もチャレンジ性が高く、ガラス中のO-H間の結合強度や印加電界強度、温度、真空度など詳細に検討する必要がある。低真空(数Pa)でH+放出が確認されれば、より汎用性の高い技術となり得る。H+は電子殻を持たないむき出しの原子核であり、溶液中のH3O+などと比べて高活性である。ガラスファイバー先端からのH+放出およびナノ領域へのH+注入を実証することで、被照射体のプロトン伝導性の向上やブレンステッド酸点生成による固体酸の触媒活性向上、新たな水素結合形成や局所的な酸化反応、表面の親水・撥水パターニングなど様々な新しい機能付与などに関する成果が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初実施のガラス組成では融液粘度が高すぎたためにファイバー化が困難であったものの、組成探索を進めることで、直径が均一なプロトン伝導性ガラスを得ることに成功した。またエッチングにより、先端の先鋭化も確認した。現在の先端断面積はおよそ1平方マイクロメートルであり、今後さらにエッチング条件の探索を進めることで、現状の半分以下(先端直径を数100 nm)まで先鋭化する。プロトン源(水素ガス)を供給しながら真空中に放出されるプロトンを計測するため、真空チャンバ-を2室に分けて設計し、またファイバーへの印加電界やファイバー温度および真空度などを制御・モニタ可能な評価システムを独自に設計し、組み上げを終了した。制御・モニタはNI社のLabVIEWを用いている。来年度以降計画通り電界印加に伴うプロトン放出の実証を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
装置の組み上げに引き続き、電界印加に伴うファイバー先端からのH+放出を確認する。微小電流計(ピコアンメータ-)を用いてH+放出に伴い引き出し電極に流れるイオン電流値を計測する。ファイバーの先鋭化やH+放出条件を検討し、研究期間内に実用性能の目安である0.5 μA/cm2の電流値を得ることを目標とする。 当該ガラスにはNa+とK+イオンが含まれるものの、1 V程度の電位差(燃料電池動作時)ではH+伝導が支配的で他のカチオンは伝導しない。しかしながら高電界印加に際してはH+以外のカチオン伝導・放出の検証が不可欠である。細野らはイオン加速器を用いてMO·P2O5メタリン酸ガラス(M=Ca, Mg)にH+を注入すると、OH基濃度が上昇することを赤外分光スペクトルの解析より定量的に明らかにした。MO·P2O5ガラスは作製が容易で、申請者らも標準試料としてプロトン伝導性ガラスの研究に現在使用している。MO·P2O5ガラスを対象に当該装置を用いてH+注入処理を行い、その後にOH基の吸光度変化を調べて、プロトンが注入された確証を得る。またX線光電子分光法(所有装置)およびグロー放電発光表面分析装置によって被照射MO·P2O5ガラスの表面分析を行い、ガラスファイバー先端からのH+、Na+およびK+イオンの放出有無を確認する。電界強度、ファイバー温度および真空度などの放出条件と、H+放出による電流密度の関係を定量的に明らかにする。特にガラス中のO-H間結合強度とH+放出条件に相関があると予想され、定量的な結果に基づき学術的にナノ先鋭化ガラスファイバーからのH+放出条件および被照射試料へのH+注入効果を明確にする。
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