2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25630351
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
塩井 章久 同志社大学, 理工学部, 教授 (00154162)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ベシクル / pH勾配 / 非線形振動 / オレイン酸 |
Research Abstract |
研究代表者らが見出したpH勾配で振動的な構造変化を示すベシクルについて,その立体構造を共焦点顕微鏡を用いて明らかとした。その結果,2枚のベシクル膜が水をほとんど含まずにお互いに接着している結合部と,2枚のベシクル膜の間に多量の水溶液を含む膨潤部から形成されていることがわかった。結合部は球殻の一部となる形状をしており,そのもっとも広がった周縁部にトーラス型の膨潤部が位置している。pH勾配を形成させる前は,トーラス状膨潤部の中央の穴は非常に小さい。ここに塩基を拡散させると,この小穴の位置が,高pH側に来るようにベシクルの回転が起こる。その後,小穴が次第に広がり,それとともに,膨潤部をその周縁に保持する結合部が平らな形状となる。このとき,トーラス状の膨潤部は,そのトーラスの大きさが最大となる。その後も変形は進み,結合部の膜曲率が,最初と逆向きになり,それとともにトーラス状膨潤部の中央の穴も小さくなり,ついには最初の小穴状に戻る。ただし,このとき,小穴は低pH側に向いている。こののち,ベシクル全体が回転をおこし,小穴が高pH側に位置するようになり,構造は初期化されるため,振動的な変化を繰り返すことができる。この変形についての数理モデルの作成も行った。 振動的な構造変化は数十回にわたって続くが,この間,光学顕微鏡レベルでのサイズの減少はほとんど観測されなかった。したがって,このベシクル運動はpH勾配から定常的に力学的仕事を生み出している。 交付申請書に記載のように定常pH勾配の作成を試みたが,いまだ装置の開発途上である。また交付申請書に記載の貨物物質の輸送の実験については,溶液内に存在するオレイン酸からなる夾雑物が,ベシクル変形によって低pH部から高pH部に輸送されるという結果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者らが見出したpH勾配で振動的な構造変化を示すベシクルについて,その立体的な構造変化がどのようなものであるかを,定量的に明らかとすることができた。これは,本研究課題を進めるために不可欠の成果である。さらに,解明された構造変化を説明するための数理モデルの作成にも成功しており,構造変化の物理化学的な特徴はかなり解明されたと考えられる。 定常pH勾配の作成については,溶液の蒸発を防ぎながら定常的に塩基を拡散させる技術上の工夫の途上にあるが,現在,新しい装置を組立て中であり,これによって研究を進めることが可能となると予想している。 ベシクルを用いた貨物輸送の研究については,溶液内に偶然に存在する物質の輸送に成功し,マニピュレータによる貨物物質のハンドリングもできるようになっている。 したがって,研究は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を進めるに従い,オレイン酸系のベシクルがpH勾配下で示すダイナミクスには,当初申請時に見出していた振動的構造変化だけではない他のパターンがあることがわかってきた。すなわち,周囲のわずかなpHの違いを検知して,高pH側へ伸長しpearling(小玉のつながりへの変化)を起こすというものがある。一般に,浸透圧の勾配があれば類似の構造変化がおこることが知られているが,pH勾配下では,この伸長構造やpearling構造が元に戻り,再び繰り返して発生するという振動性を有していることがわかってきた。 このダイナミクスの理解は,pH勾配下で現れる振動的構造変化の全体を理解するうえで重要であると考えられる。当初計画段階で見出していた構造変化のほかに,この新たな振動的構造変化についても,その特徴を解明する研究を進める。 当初計画では,貨物物質にさまざまな性質をもたせて,分子集合体ポンプとしての機能を研究することにしていたが,pH勾配下でベシクルが示す振動的な構造変化の中で当初計画で示していた構造変化を示すものは,全体の1~2割であることがわかった。したがって,振動的構造変化全体の特徴を理解し,ポンプとして有力と考えられる運動パターンを設計するというアプローチをとることが重要であると,現段階では考えている。
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Research Products
(4 results)