2014 Fiscal Year Research-status Report
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25630351
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
塩井 章久 同志社大学, 理工学部, 教授 (00154162)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ベシクル / pH勾配 / 化学走性 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の実績報告書には,pH勾配で振動的な構造変化を示すベシクルについての研究成果について報告し,また,定常pH勾配の作成を試みていること,および,溶液内に存在するオレイン酸からなる夾雑物が,ベシクル変形によって低pH部から高pH部に輸送されるという結果についても報告した。前年度に報告した現象は,2枚のベシクル膜が水をほとんど含まずにお互いに接着している結合部と,2枚のベシクル膜の間に多量の水溶液を含む膨潤部から形成されていたベシクルが,周期的変形を繰り返すというものであったが,この周期的運動が停止したあとに適切なpH勾配を与え続ければ,ベシクルは周期運動を停止して円盤状に変化し,円盤側面から偽足状の突起を繰り返し伸縮させることを見出した。この周期運動は,ベシクルが周囲のpHゆらぎを検知して持続的運動を発生することを示しており,アメーバ的な運動様態であるといえる。今回の研究では,pH勾配をNaOH水溶液の拡散によって形成させたが,NaCl水溶液を拡散させた場合には,円盤状ベシクルの側面から突起が伸びるだけで,周期性のある伸縮運動は発生しなかった。 NaOHやNaCl拡散下では,ベシクル内水相と外水相に浸透圧差が発生し,これによって内水相が外部に抽出されて突起が形成されると考えられる。一方,オレイン酸および,そのイオン化物から構成されるベシクル膜は,flip/flopによってH+(OH-)を通過させる。したがって,NaOH拡散下で形成された浸透圧差は,H+(OH-)の膜通過と,それによって形成された膜内外の電気化学ポテンシャル差に起因するNa+の膜通過によって,比較的速やかに消失し,膜力学的に安定な円盤状に復帰するとして,伸縮運動を数学的に説明することができた。一方,NaCl拡散下では,形成された膜内外のNa+濃度差が長時間維持されるため,突起は一方的に伸びるだけになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
pH勾配で振動的な構造変化を示すベシクルの立体的な構造変化を解明し,またアメーバ的な偽足状突起の伸縮を見出して,そのメカニズムを解明したことは,本研究課題を進めるために重要な成果である。マニピュレータによる貨物物質のハンドリングもできるようになっており,ベシクルの構造変化や偽足の伸縮を利用して,固体物質の輸送を行わせることは可能な状況になっている。一方,定常pH勾配の作成については,装置上の問題から当初予想通りに進んでいない。しかし,非定常濃度勾配下において当初予想していた以上の多様なベシクルダイナミクスを観測できるようになっており,この研究を進めれば,定常濃度勾配形成に頼ることなく,研究目的が遂行できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在,pH勾配を外部操作で形成させることでのベシクルダイナミクスを観察している。一方,ベシクルがそれ自体に起因する化学反応によって周囲にpHの揺らぎを自己生成し,周期的構造変化を示すようになれば,分子集合体による物質の輸送(ポンプ機能)は,様々な物質の存在下で実現することになる。現在,ベシクルにグルコース分解酵素を含ませ,グルコース溶液中におくと,ベシクル周縁で進むグルコース分解反応によってpH揺らぎが形成され,これが局所的なpH勾配を自己生成することを利用したベシクル運動の研究を開始している。予備的な知見では,ベシクルはグルコース存在下で周期的な変形運動を示しており,今後,この研究を強力に進める。多くの生物のエネルギー源であるグルコースをエネルギー源として,持続的に運動し物質を輸送するベシクルができれば,これは単細胞生物模倣的な動的分子集合体機能であるということができる。今後は,この方向に沿って研究を推進する。
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Causes of Carryover |
薬品などの消耗品を予想より少額でまかなうことができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
成果報告のための旅費にあてる予定である。
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Research Products
(6 results)