2013 Fiscal Year Research-status Report
免疫親和性を利用したタンパク質アシル化の網羅的解析法の開発
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25650008
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
増井 良治 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40252580)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | プロテオーム / 蛋白質 / シグナル伝達 / 発現制御 / 細菌 / 翻訳後修飾 / アセチル化 |
Research Abstract |
本年度は,アシル化リシンのうち,アセチルリシンを対象にした研究を行った。まず過剰量の無水酢酸と反応させたウシ血清アルブミンをプロテアーゼで断片化し,得られたアセチルリシン含有ペプチドの混合物を抗原として,抗アセチルリシン抗体を作製した。この抗体 (抗血清) を固定化したビーズを,高度好熱菌Thermus thermophilus HB8の細胞破砕液から調製したトリプシン消化物と混合し,中性緩衝液で洗浄した後,ビーズに吸着したペプチドを溶出した。この画分を脱塩,濃縮したのち,nano-LCと接続したESI-Q-TOF型質量分析装置によってタンデムMS解析を行い,アセチル化部位を同定した。その結果,128個の蛋白質について197箇所のリシン残基のアセチル化と4箇所のN末端アミノ基のアセチル化を同定した。同定したアセチル化蛋白質は,代謝や翻訳などに関するものが多く見られた。アセチル化部位は規則的二次構造中に多く見られ,また近傍には負電荷をもつグルタミン酸残基が多い傾向が見られた。さらにアセチル化部位を立体構造上にマッピングしたところ,蛋白質分子表面で静電的相互作用や水素結合を形成していたため,アセチル化はこれらの相互作用を破壊することが示唆された。さらに,蛋白質の働きにとって重要な部位にあるリシン残基がアセチル化されているケースも22例あり,この場合はアセチル化が蛋白質の活性を直接制御する可能性が示唆された。 次に,対数増殖期と定常期にある高度好熱菌の細胞についてアセチル化部位の同定を行ったところ,アセチル化は定常期でより多く見られることが分かった。さらに,抗アセチルリシン抗体を用いた解析でもいくつかのプロピオニル化リシンが同定した。そこで,抗プロピオニルリシン抗体を作製し,同様の解析を行ったところ,アセチルリシンに匹敵する数のプロピオニルリシンを同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」として上げた4点のうち,「1)キャリアータンパク質を化学的に修飾して,アシル化リシンを含むペプチドの混合物を調製し,それらに対する抗体を作製する」点については,化学的にアシル化したウシ血清アルブミンを用いて抗アセチルリシン抗体および抗プロピオニルリシン抗体を作製することに成功した。 次に,「2)抗アシル化リシン抗体に対する免疫親和性を利用して,細菌細胞から各アシル化修飾を含むペプチドをアフィニティー精製により選択的に濃縮する方法を確立する」点についても,上記抗体を用いて高度好熱菌の細胞破砕液からアシル化ペプチドを選択的に濃縮する方法を確立した。 さらに,「3)確立した方法を用いて,異なる培養条件の菌体やタンパク質のアセチル化に関与する酵素の遺伝子欠損株について,アシル化プロテオーム解析を行う」点については,nano-LCと接続したESI-Q-TOF型質量分析装置によってタンデムMS解析を行い,対数増殖期と定常期という異なる培養条件の菌体について,各アシル化ペプチドのアシル化部位を同定することに成功した。また,(脱)アセチル化酵素の遺伝子欠損株も作製したが,アシル化プロテオーム解析はまだ行っていない。 最後に「4)アシル化によるタンパク質機能の影響を精製タンパク質を用いて解析する」点については,アセチル化酵素および脱アセチル化酵素の発現用プラスミドは構築したものの,発現・精製するには至っていないため,発現方法を改良中である。そのため,同定したアセチル化部位を立体構造上にマッピングすることにより,修飾による蛋白質機能への影響を評価した。 以上のことから,初年度としては当初の目的の半分近くは達成しているものと評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究目的のうち,基礎となる部分はすでに達成できたので,今後は,まず栄養状態の異なる培地で生育させた野生株の菌体についてアセチル化プロテオーム解析を行い,細胞内のエネルギー状態とアセチル化との関連を推測する。また,(脱)アセチル化酵素の遺伝子欠損株についても解析を行い,どの修飾酵素がどの部位の (脱)アセチル化に関与しているか,また細胞活動にどのような影響をもたらしているかを調べる。 次に,(脱)アセチル化酵素とアセチル化される基質蛋白質を調製して,in vitroでアセチル化を行い,その蛋白質機能に対する影響を調べる。現時点では,基質蛋白質は調製できているが,(脱)アセチル化酵素が大腸菌の系では発現できていない。そこで,高度好熱菌内でアフィニティータグを付加した形で発現させて精製することを予定している。また,修飾酵素の調製がうまくいかないことも想定し,基質蛋白質のアセチル化部位に部位特異的変異を導入することで,アセチル化の働きを推定する実験も計画している。 さらに,初年度の研究過程で,リシン残基のプロピオニル化がアセチル化に匹敵するほど多数存在することが明らかとなった。これまでプロピオニル化がこれほど広範に存在することは報告されておらず,新しい発見といえる。そこで,アセチル化部位とプロピオニル化部位の比較や,(脱)アセチル化酵素が (脱)プロピオニル化も触媒するのかを検証する。また,プロピオニル化が他の生物にも広く存在するかどうかを確認するため,大腸菌や枯草菌,ヒトなどについても抗プロピオニルリシン抗体を用いた解析を試みる。 一方,アセチル化やプロピオニル化以外のアシル化修飾についても抗体を作製しつつあるので,同様の解析を行う予定である。
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