2014 Fiscal Year Research-status Report
免疫親和性を利用したタンパク質アシル化の網羅的解析法の開発
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25650008
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
増井 良治 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (40252580)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | プロテオーム / 蛋白質 / シグナル伝達 / 発現制御 / 細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,アシル化リシンのうち,プロピオニル化リシンを対象にした研究を行った。まず過剰量の無水プロピオン酸と反応させたウシ血清アルブミンをプロテアーゼで断片化し,得られたプロピオニル化リシン含有ペプチドの混合物を抗原として,抗プロピオニル化リシン抗体を作製した。この抗体 (抗血清) を固定化したビーズを,高度好熱菌Thermus thermophilus HB8 の細胞破砕液から調製したトリプシン消化物と混合し,中性緩衝液で洗浄した後,ビーズに吸着したペプチドを溶出した。この画分を脱塩,濃縮したのち,nano-LC と接続した ESI-Q-TOF 型質量分析装置によってタンデム MS 解析を行い,アセチル化部位を同定した。その結果,183個のタンパク質について361箇所のリシン残基のプロピオニル化を同定した。プロテオームレベルでこれほど多くのプロピオニル化が同定されたのは,本研究が初めてである。いくつかのペプチドについては,同じ配列をもつプロピオニル化ペプチドを合成し,同じ MS/MS スペクトルが得られることを検証した。同定したプロピオニル化タンパク質の約60%は,エネルギー産生や広く代謝に関わるものであり,特に解糖経路や TCA 回路で働く酵素の多くがプロピオニル化されていた。対数増殖期 (80個のタンパク質,121箇所) と比べると,定常期 (163個のタンパク質,323箇所) でより多くのプロピオニル化が同定され,全体の約60%は各増殖相に特有であった。代謝に関わるタンパク質のプロピオニル化は,定常期になると増加する傾向が見られた。また,アセチル化部位と重複していたのは,プロピオニル化部位全体の約20%であった。これらの結果から,アセチル化とプロピオニル化は細胞内で別々の制御を受けて異なる働きをしており,特に細胞増殖の調節に関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」として上げた4点のうち,「1)キャリアータンパク質を化学的に修飾して,アシル化リシンを含むペプチドの混合物を調製し,それらに対する抗体を作製する」点については,化学的にアシル化したウシ血清アルブミンを用いて抗アセチルリシン抗体および抗プロピオニルリシン抗体を作製することに成功した。 次に,「2)抗アシル化リシン抗体に対する免疫親和性を利用して,細菌細胞から各アシル化修飾を含むペプチドをアフィニティー精製により選択的に濃縮する方法を確立する」点についても,高度好熱菌の細胞破砕液からアセチル化ペプチドだけでなく,プロピオニル化ペプチドを選択的に濃縮する方法も確立した。 さらに,「3)確立した方法を用いて,異なる培養条件の菌体やタンパク質のアセチル化に関与する酵素の遺伝子欠損株について,アシル化プロテオーム解析を行う」点については,nano-LCと接続したESI-Q-TOF型質量分析装置によってタンデムMS解析を行い,対数増殖期と定常期という異なる培養条件の菌体について,アセチル化部位とプロピオニル化部位を同定することに成功した。また,(脱)アセチル化酵素の遺伝子欠損株も作製したが,アシル化プロテオーム解析はまだ行っていない。 最後に「4)アシル化によるタンパク質機能の影響を精製タンパク質を用いて解析する」点については,アシル化酵素と脱アセチル化酵素 (2種類) の発現・精製に成功し,そのうち1つについては合成ペプチドに対する脱アセチル化活性を確認した。また,平行して,同定したアセチル化部位を立体構造上にマッピングすることにより,修飾による蛋白質機能への影響を評価した。 以上のことから,初年度としては当初の目的の半分近くは達成しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究目的のうち,基礎となる部分はすでに達成できたので,今後はまず,アセチル化酵素および (脱)アセチル化酵素の遺伝子欠損株についてもアシル化プロテオーム解析を行い,どの修飾酵素がどの部位の (脱)アセチル化に関与しているかを調べる。同時に,様々な培養条件における遺伝子欠損株の生育などの表現型を詳しく解析し,アシル化が細胞活動にどのような影響をもたらしているかを調べる。 次に,(脱)アシル化酵素とアシル化される基質蛋白質を調製して,in vitro でアシル化反応を行い,その蛋白質機能に対する影響を調べる。リシン残基のプロピオニル化がアセチル化に匹敵するほど多数存在することが明らかとなった。これまでプロピオニル化がこれほど広範に存在することは報告されておらず,新しい発見といえる。そこで,アセチル化とプロピオニル化が既知のアシル化酵素によって触媒されるかどうか,さらに同じ基質タンパク質に対する修飾度の違いなどを検証する。現時点では,1種類の脱アシル化酵素は調製できているが,アシル化酵素の大量調製ができていない。そこで,高度好熱菌内でアフィニティータグを付加した形で発現させて精製することを予定している。また,修飾酵素の調製がうまくいかないことも想定し,基質蛋白質のアセチル化部位に部位特異的変異を導入することで,アセチル化の働きを推定する実験も計画している。 さらに,2年目の研究で,リシン残基のプロピオニル化がアセチル化に匹敵するほど多数存在することが明らかとなった。プロピオニル化が他の生物にも広く存在するかどうかを確認するため,大腸菌や枯草菌,ヒトなどについても抗プロピオニルリシン抗体を用いた解析を試みる。 一方,アセチル化やプロピオニル化以外の短鎖アシル化ペプチドについても,すでに抗体を作製した。これらを用いて,他のアシル化についても同様の解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では,最終年度である平成26年度に,アシル化酵素ならびに脱アシル化酵素を調製し,それらによるアシル化/脱アシル化反応,および(脱)アシル化されるタンパク質の機能解析を行い,並行して高度好熱菌以外の生物種についてもプロピオニル化プロテオーム解析を予定であった。しかし,研究代表者が平成26年10月に大阪大学から大阪市立大学に異動したため,必要な実験設備や環境を整備しなおし,本格的に実験を行えるようになるまでに時間を要した。そのため,平成26年度内に予定していた解析を完了させることができなくなり,当初の研究計画を変更する必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
このため,(脱)アシル化酵素と基質タンパク質を用いたアシル化タンパク質の機能解析ならびに他生物種についてのプロピオニル化プロテオーム解析を次年度平成27年度に行うこととし,同年度の助成金はその経費に充てることにする。具体的には,培地用試薬,タンパク質精製用樹脂・器材,ペプチド合成,MS用キャピラリーカラムなどを購入する。
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Research Products
(4 results)