2013 Fiscal Year Research-status Report
胎盤特異的なプロテインキナーゼNrkがもたらす分娩発来機序の解明
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25650031
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
傳田 公紀 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (50212064)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | セリン/トレオニンキナーゼ / 分娩不全 / 遺伝子欠損マウス / 胎盤 / X染色体不活化 |
Research Abstract |
我々はX染色体にコードされる新規プロテインキナーゼNrk(Nik-related kinase)の遺伝子ノックアウトマウスの解析を行い,胎児におけるNrk欠損が胎盤を過剰に細胞増殖させると共に,その母体に分娩不全を引き起こすことを見出した(Denda et al.)。これは胎児から母体に向けて未知の分娩誘発シグナルが折りよく発信され,その際にNrkがこのシグナル発信に不可欠な役割を担うことを意味するものである。さらにNrk欠損により胎児と母体を結ぶ胎盤に形態異常がみられたことと併せると,周産期において胎盤を介するこのシグナル伝達が正常分娩に必須であることが示唆される。本研究では,胎児(胎盤)による分娩誘発の分子機構を知る有力な手掛かりを得るため,まずNrkと相互作用するタンパク質の同定を行った。これまでタンパク質分子間相互作用により細胞増殖制御に関与する既知のシグナル伝達分子を含め,複数の有力候補分子が得られてきており,現在これら結合因子について実際に哺乳動物細胞内でNrkと結合するか,Nrkによってリン酸化されるか否か等の解析を進め,Nrkの生体内における役割を解析中である。また,Nrkの遺伝子ノックアウトによって遺伝子産物量が変動するタンパク質の探索を行い,これまで胎盤組織由来のリン酸化基質の可能性が期待される十数個の検出スポットを取得した。これら検体の質量分析を行い発現タンパク質を解析し,Nrkと相互作用する細胞内分子の同定を進めてきた。分娩は妊娠維持ホルモンであるプロゲステロン(P4)の母体血中レベルの低下により誘発される。そこでNrkによる分娩誘発とP4との関連性を調べた。これまでのところ,マウス妊娠後期におけるWTとKOの血中濃度に有意な差は認められなかった。従って,Nrkが齎すと考えられる分娩誘発メカニズムに,既知のP4制御が直接関与しないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では周産期医療にも資する,胎児胎盤による分娩誘発の分子機構を知る有力な手掛かりを得る目的で,Nrkと相互作用するタンパク因子のスクリーニングを進めてきた。その結果,酵母ツーハイブリッド法により取得した複数の候補分子は,細胞周期を介する細胞増殖調節因子であることが報告されているものや直接タンパク質生合成に与る分子等が含まれていた。他方,タンパク質分子間相互作用の別法としてGST-プルダウン法も並行して実施した結果,シグナル伝達に関与する複数の候補因子が得られている。現在これらNrkと相互作用するタンパク質分子に関し哺乳動物細胞内でNrkと結合するか,Nrkによってリン酸化されるか否かを知るためのタンパク質間相互作用解析を進めている。さらにNrkがリン酸化する基質タンパク質についても胎盤の全組織に対して行い,本酵素のリン酸化基質に該当する可能性がある十数個の検出スポットを取得した。これら検体の質量分析を行Nrkと相互作用する細胞内分子の同定を進めており,本研究の進展によりNrkと結合するタンパク因子によって未知の細胞内シグナル伝達機構が明らかにされることが期待できるものと考えられる。第二にNrk欠損の胎児(胎盤)をもつ妊娠マウスにおいて,P4に関連する母体由来の既知の分娩誘発機構に異常が認められるか否かを明らかにするため,分娩間際まで経時的にP4の血中濃度を解析した結果,Nrkが関与する分娩誘発に至る現象が既知のものと独立したメカニズムであることが導き出された。従って,胎盤においてNrkによるシグナル伝達下流で制御される標的遺伝子の同定に力点を置き,分娩誘発に至るNrkのシグナル伝達経路を解明していくことが重要であるという方針を導き出すことができた。以上の進捗状況から,今後若干の方針の修正を要しながらも現在までのところ研究計画は概ね予定に沿って進められてきていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
周産期における分娩誘発メカニズムの解明を目的として,以下の方針に基づいて研究を進める。まずこれまでに引き続き,Nrk欠損胎児を妊娠した母体において知られる分娩誘発因子の検索を行う。分娩間際の子宮筋収縮を促進するシクロオキシゲナーゼ(COX),オキシトシン受容体ならびに子宮頸管熟化に重要と考えられるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP),ヒアルロン酸合成酵素(hyaluronan synthase;HAS)等について遺伝子発現レベルの動態を解析する。また,Nrkのリン酸化基質の探索に関し,NrkがWTにおいて高発現しNrk欠損で過増殖に至る海綿状栄養膜細胞層を胎盤組織より取り分けて行ってきたプロテオーム解析をさらに進める。分画された二次元電気泳動像において発現量の変化の見られるタンパク質を質量分析により同定し,更なる機能解析を行う。他方,酵母ツーハイブリッド・スクリーニングならびにGSTプルダウンで同定されたNrk結合タンパク質に関し,胎盤組織並びに哺乳動物培養細胞を用いて生化学的・細胞生物学的な機能解析を行う。Nrkとの結合因子が実際に分子内のどの領域でin vivoで相互作用しているのか免疫沈降法により調べ,Nrkの相互作用が細胞生理にどのように寄与するのか解析する。妊娠母体由来の既知の分娩誘発機構として知られる血中P4濃度低下がNrk欠損胎児を妊娠しても認められないことから,今後は胎盤においてNrkによるシグナル伝達の下流で誘導される標的遺伝子の同定に注力する方針である。さらに,胎盤でNrkによるシグナル伝達の下流で発現誘導される遺伝子のマイクロアレイ解析をおこなう。Nrk欠損胎盤ではNrkの標的遺伝子の発現が低下していると予想されることから,DNAマイクロアレイ法による遺伝子発現プロファイルの解析を行いNrk欠損胎盤を正常胎盤と比較し発現の変動した遺伝子を同定する。
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