2013 Fiscal Year Research-status Report
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25650083
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
岡本 龍史 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (50285095)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 受精 / 核融合 / 受精卵 / シンシチウム / 核の合一 |
Research Abstract |
多細胞真核生物を構成するほとんどの細胞では1細胞1核の状態が保たれているが、1個の細胞中に複数の核が存在する細胞として、合胞体(シンシチウム)と雌雄配偶子が融合した直後の受精卵がある。合胞体は、植物の胚のうや胚乳、昆虫の初期胚、動物の骨格筋繊維や胚盤などの形成期に生じるが、細胞内の核が融合することはない。一方、受精卵中では、受精直後には精核と卵核の2つの核が存在するが、それらは速やかに融合(合一)し、受精卵核(接合子核)を形成する。このように、1個の細胞内で複数の核が存在するという点では合胞体と受精卵は共通しているが、前者では核が融合しない状態で安定しているのに対して、後者では両核の融合が速やかに進行するという明確な違いがある。本研究は、卵細胞、精細胞、体細胞などを様々な組み合わせで融合させた細胞中の核の動態を詳細に観察・解析することで、核融合を制御する機構の一端を明らかにすることを目的として研究を進めた。 本年度はまず、受精卵中における雌雄配偶子核の融合機構について詳細な観察を行った。その結果、精細胞核は受精後すみやかにアクチン繊維依存的に移動して卵細胞核と接したのち、卵細胞核内の染色糸・染色質の精核内への進入に伴って精細胞核の体積が約1.8倍になり、その後、精細胞核内の染色糸が核融合の進行に伴って脱凝集することが示された。さらに、体細胞と雌雄配偶子を任意の組み合わせで融合させたのち、それら融合細胞内における核融合過程を解析したところ、卵細胞内には「核融合因子」が存在し、その働きを促進させる「核融合促進因子」が精細胞側に存在する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請課題は、卵細胞、精細胞、体細胞などを様々な組み合わせで融合させた細胞中の核の動態を詳細に観察・解析することで、植物における核融合の制御機構を司る分子基盤の一端を明らかにすることを目的としている。 今年度は、まず雌雄配偶子過程における核融合過程を詳細に解析した。その結果、受精後5~10分間で精細胞核はアクチン繊維依存的に卵細胞核と接するようになり、多くの場合、受精後30~70分で精細胞核内で凝集していた染色糸が融合核核内に拡散していく様子(核融合の進行)が観察された。さらに、受精卵核内において精細胞核染色糸の脱凝集が起きる前に、卵細胞核染色糸が精細胞核内に侵入にすることにより、精細胞核の肥大化が起こることが明らかになった。次に、雌雄配偶子核の合一以外の核融合過程を観察するため、体細胞と雌雄配偶子、雌性配偶子同士などを様々な組み合わせで融合させ、それら融合細胞内における核動態を観察した。その結果、受精卵中の精核と卵核はすみやかに融合するが(融合後30-70分)、卵細胞同士を融合させた融合細胞内の2つの卵核は、その融合に16-20時間を要することが示された。また、卵細胞同士の融合卵に精細胞をさらに融合させると、核融合にかかる時間が約8-12時間へと短縮されたが、イネ葉から調製したプロトプラストと精細胞を融合しても核融合は起こらず、卵細胞と葉プロトプラストを融合させた場合には4~12時間の遅い核融合が観察された。これらことは、卵細胞内には「核融合因子」が存在し、その働きを促進させる「核融合促進因子」が精細胞側に存在する可能性を示しており、核融合制御機構の存在を提示するという本年度の研究目的はおおむね達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
核融合促進因子同定に向けた実験系の条件検討および確立:精細胞内に存在が推定される核融合促進因子の同定に向けた解析を進める。卵細胞はヒストンH2B-GFPで細胞核が蛍光標識されている形質転換イネ由来のものを、精細胞(花粉)は野性型イネ由来のものを用いる。イネ花粉をマンニトール溶液内でバーストさせたのち、パーコール密度遠心勾配法により精細胞を大量調製する。次に精細胞を軽く破砕したのちに、ショ糖密度勾配法により核、細胞質、各種オルガネラの各画分を分画する。それぞれの画分を、レーザーマイクロインジェクション (LMI) 法により、卵細胞同士を融合させた細胞へ導入したのち、融合細胞中の核融合の進行の速度を蛍光タイムラプス観察により検定する。核融合促進効果が見られない際は、全画分の同時導入も試みる。また、LMI法ではなく、リポソームインフェクションなどの他の物質導入法による融合細胞への物質導入も試みる。核融合促進活性が検出された際は、精細胞の細胞質、核、各種オルガネラのいずれの画分に核融合制御関連分子が存在するのかを明らかにするとともに、核融合の促進活性を示した画分(細胞質画分、核画分、あるいは各種オルガネラ画分)をさらに、タンパク質画分、低分子物質画分、RNA画分に分け、どの画分に核融合促進活性が含まれているのかを明らかにする。その後さらに物質分画を進め、上記と同様の解析を進めることで、核融合制御関連分子の同定を試みる。 シロイヌナズナin vitro受精系の確立:核融合機構の分子基盤解明に向け、各種マーカーラインや変異体ストックが豊富なシロイヌナズナを用いたin vitro受精系の確立に向けた研究も付せて進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
細胞(配偶子)の単離、それらの融合、および融合細胞の観察など、顕微鏡下での操作の作業が増えることが予測されたので、平成25年度に倒立型顕微鏡の購入を予定していたが、昨年度初めに他の研究費で購入した細胞融合装置を使用することにより細胞の融合効率が上がったため、単離する細胞の数を減らすことができた。そのため細胞単離操作が予定よりも減り、当該年度に顕微鏡を購入するのではなく、蛍光装置あるいは高性能レンズを、細胞の蛍光観察作業が増える平成26年度以降に購入することにしたことにより、次年度使用額が生じた。 核融合促進因子の活性測定およびその同定の実験ステップに進む平成26,27年度は、融合細胞の蛍光観察など、顕微鏡下での操作・観察の作業が大幅に増える。このことから、翌年度分として請求した助成金での消耗品の購入に加えて、顕微鏡用の蛍光装置または高性能レンズの購入を予定している。
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Research Products
(10 results)