2013 Fiscal Year Research-status Report
イソギンチャク-褐虫藻共生実験系の確立:サンゴ共生のモデル化を目指して
Project/Area Number |
25650087
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
上野 直人 基礎生物学研究所, 形態形成研究部門, 教授 (40221105)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 弘樹 基礎生物学研究所, 形態形成研究部門, 助教 (40283585)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 胚葉形成 / 原腸形成 |
Research Abstract |
サンゴを含む刺胞動物のモデル生物としてのセイタカイソギンチャク(Aiptasia pallida)を飼育・繁殖し、研究に用いるために十分な個体数を確保するための条件検討を行った。水質、水温などの条件検討を行った結果、無性生殖によって実験室内で効率良く増殖させることが可能になった。餌についても検討し、小型魚類の飼育に用いられているブラインシュリンプ(アルテミア)が適当であるとの結論に至った。遺伝子導入については、電気窄孔法(エレクトロポレーション)を試みているがまだ成功に至っていない。遺伝子発現を制御するプロモーターを脊椎動物由来のものから、刺胞動物由来のものに入れ替えるなどの検討を行っているところであり、また、イソギンチャクの褐虫藻の取り込み(共生)、離脱誘導(白化)を人為的に再現することが可能になった。これら共生株、白化株を用いて、トランスクリプトーム解析とメタボローム解析を実施しており、環境(温度)変化による白化に伴うイソギンチャクの遺伝子発現、代謝状態について興味深い結果を得つつある。また、トランスクリプトーム解析から得られたvasa、nanosなど生殖細胞特異的遺伝子のイソギンチャクにおける局所的発現パターンについてはwhole-mount in situ hybridization(WISH)や個体の凍結切片を用いたin situ hybridizationを行っており、とくにvasaについては生殖細胞以外の広い領域での発現を確認しており、同遺伝子の今後の機能解析に興味が持たれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)飼育・繁殖、2)遺伝子導入方法、3)環境変動誘導実験の確立、4)トランスクリプトーム及びメタボローム解析、5)in situ hybridizationによる遺伝子発現解析、それぞれの確立を目指して研究を進めた。遺伝子導入方法についてはいまだに確立に至っていないが、他のすべての目標については計画どおり、あるいは計画以上に進展したといえる。飼育・繁殖については概ね順調に進んでおり、現在基礎生物学研究所に新たに設置した環境制御可能な海水水生動物で循環水槽を用いて同イソギンチャクの大量培養が可能な飼育環境が整いつつある。また、飼育時の光周期を調節することで、無性生殖を有性生殖に切り替えることができるという未発表データを検証し、卵を得ることができた。したがって受精卵・胚を得ることを目標に、現在、有性生殖化したオスの同定を含めた再現実験を行っている。この有性生殖化が確立すると、卵、受精卵、胚を得ることが可能になり、様々な実験操作の適応範囲が大きく広がることが期待される。トランスクリプトーム解析においては大変質の高いライブラリーの作成に成功しており、それぞれH2株とCC7株についてde novo assemblyをTrinityにより行なった。また、いままでH2株、CC7株は別系統として維持されてきたが、遺伝子解析の結果から両者は酷似しており、遺伝子レベルでは別系統とする根拠がないことが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
順調に進んでいる実験1)、3)、4)、5)については、予定どおり研究を進める。一方、唯一計画より遅れている研究計画が、イソギンチャク個体への遺伝子導入である。いままでに、エレクトロポレーション法のさまざまな条件を検討したが、遺伝子(発現プラスミド)が細胞内に到達していないのではないかと考えている。その原因として考えられるのが、イソギンチャクが産生し、個体全体を覆う粘液(ムコ多糖)であり、この粘液層が遺伝子導入にとって物理的障害になっている可能性がある。現在、この粘液を除去するためのビソルボン溶液の処理後に遺伝子導入を行っている。また、サイズが触覚を含んで数センチに及ぶイソギンチャク個体を用いるのではなく、イソギンチャク底部に存在する足盤から切離して生じる細胞塊(全能性をもち、ここから個体が形成される)に直接遺伝子導入を行うこと試みている。さらに、将来的には同イソギンチャクのゲノム情報から得られたプロモーター配列(例えばアクチン遺伝子プロモーター)を遺伝子発現制御に用いるなどについても考慮したい。同時に、有性生殖化によって卵を得ることができれば、マイクロインジェクション法を用いて卵あるいは受精卵に遺伝子を導入することが可能になるものと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は早い時期に遺伝子(発現プラスミド)導入のためのエレクトロポレーション法が成功し、さまざまな遺伝子コンストラクトを個体に導入する実験が可能になるものと期待していたが、イソギンチャクを覆う粘膜により思った結果が得られなかったため計画変更を余儀なくされた。したがって、遺伝子導入する予定であった遺伝子コンストラクト作製に必要な試薬類、DNA配列確認のためのDNAシーケンスに関わる試薬が計画通りに執行できず、次年度使用することとなった。 現在、個体から粘液(ムコ多糖)除去する操作を試行錯誤しており、同時に個体から切離されて生まれる全能性をもった足盤断片へのエレクトロポレーション法を試みている。これらの方法のうちいずれかに成功すれば、さまざまなコンストラクトについて遺伝子導入が可能になるだろう。その際、上述した試薬類に使用する計画である。
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