2014 Fiscal Year Research-status Report
イソギンチャク-褐虫藻共生実験系の確立:サンゴ共生のモデル化を目指して
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25650087
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
上野 直人 基礎生物学研究所, 形態形成研究部門, 教授 (40221105)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 弘樹 基礎生物学研究所, 形態形成研究部門, 助教 (40283585)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 胚葉形成 / 原腸形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
刺胞動物(サンゴ、イソギンチャ)と褐虫藻の共生のメカニズムを解明するために、それらへの遺伝子導入法の確立を目指して研究を進めた。コユビミドリイシの卵あるいは受精卵へ、このサンゴの遺伝子由来のプロモーターを組み込んだプラスミドをマイクロインジェクションした。その結果、プラヌラ幼生期に導入した遺伝子由来の発現が確認できた。また、セイタカイソギンチャクへの遺伝子導入法として、マイクロインジェクション法とエレクトロポレーション法を予定していた。残念ながら、現在までこのイソギンチャクの卵は得られておらず、マイクロインジェクション法を進めることはできていない。一方で、エレクトロポレーション法においては、前処理を工夫することで結果が得られ始めている。イソギンチャク個体全体を覆う粘液(ムコ多糖)をブロムヘキシン塩酸塩の作用により取り除き、同時に、実験操作などの外部刺激によって新たに粘液が産生されるのを防ぐために塩化マグネシウムの作用により麻酔状態にして遺伝子導入を行った。その結果、イソギンチャク個体への遺伝子導入が確認された。また、イソギンチャク底部に存在する足盤から切離して生じる全能性をもった細胞塊に直接遺伝子導入を行うことも試みている。しかし、エレクトロポレーション後のこの細胞塊の生存率が非常に低く、これを改善するさらなる条件検討が必須であると考えている。 また、ゲノム解析の結果から、褐虫藻と共生しない刺胞動物に比べ、ミドリイシ属のサンゴは複雑な自然免疫系の遺伝子を持つことが報告されている。これに着目し、褐虫藻との共生と自然免疫系の関係を調べるため、これらに対する阻害剤を用いた実験を行った。その結果、NF-kBの転写活性の阻害が、コユビミドリイシ、セイタカイソギンチャク共に、褐虫藻との共生維持に影響するという結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年同様に、1)飼育・繁殖、2)遺伝子導入方法、3)環境変動誘導実験の確立、4)トランスクリプトーム及びメタボローム解析、5)in situ hybridizationによる遺伝子発現解析、それぞれの確立を目指して研究を進めた。昨年進捗が滞っていた遺伝子導入方法についても、エレクトロポレーション(電気窄孔)法の条件検討を行うことにより、LacZ遺伝子導入に成功した。他のすべての目標についても計画どおり進展したといえる。飼育・繁殖については概ね順調に進んでおり、現在基礎生物学研究所に新たに設置した環境制御可能な海水水生動物の循環水槽を用いた同イソギンチャクの大量培養に加えて、白化株の作製にも成功している。また、ゲノム解析の結果から、褐虫藻と共生しない刺胞動物に比べ、ミドリイシ属のサンゴは複雑な自然免疫系の遺伝子を持つことが報告されている。これに着目し、褐虫藻との共生と自然免疫系の関係を調べるため、これらに対する阻害剤を用いた実験を行った。その結果、NF-kBの転写活性の阻害が、コユビミドリイシ、セイタカイソギンチャク共に、褐虫藻との共生維持に影響するという結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
順調に進んでいる実験1)、2)、3)、4)、5)については、予定どおり研究を進める。一方、唯一計画より遅れている研究計画が、また、飼育時の光周期を調節することで、無性生殖を有性生殖に切り替えることができるという未発表データを検証し、卵を得ることができた。したがって受精卵・胚を得ることを目標に、現在、有性生殖化したオスの同定を含めた再現実験を行っている。この有性生殖化が確立すると、卵、受精卵、胚を得ることが可能になり、様々な実験操作の適応範囲が大きく広がることが期待される。
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Causes of Carryover |
本年度は遺伝子(発現プラスミド)導入のためのエレクトロポレーション法に成功した一方、光調節により無性生殖を有性生殖に切り替え、卵を得ることができた。したがって受精卵・胚を得ることはできなかった。この有性生殖化が確立すると、卵、受精卵、胚を得ることが可能になり、様々な実験操作の適応範囲が大きく広がることが期待されるため、同実験を次年度に継続して実施するため、研究費を次年度使用することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
インキュベータ内で光照射時間をプログラムできる装置を設置し、より厳密な光制御を行うことによって有性生殖化の効率を高める努力をする。加えて、さまざまな人工海水を購入し、有性生殖化に必要な飼育条件を詳細に検討する。
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