2013 Fiscal Year Research-status Report
昆虫における機械感覚器から湿度感覚器への進化に関する神経生物学的研究
Project/Area Number |
25650119
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
横張 文男 福岡大学, 理学部, 教授 (20117287)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邉 英博 福岡大学, 理学部, 助教 (90535139)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 無翅目昆虫 / 原始昆虫 / マダラシミ / 湿度受容 / 温度受容 / 機械受容 / 中大脳触角葉 / 糸球体 |
Research Abstract |
本研究は、「昆虫のおける機械感覚器から湿度感覚器への進化過程」を調べることを目的としている。 原始昆虫である無翅昆虫マダラシミの触角に湿度・温度感覚子の候補になる感覚子の在る無しを調べるために、先ず触角を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、嗅覚や味覚・機械感覚子の外部形態をもつ感覚子だけでなく、分布数は少ないが、有翅昆虫の湿度・温度感覚子と良く似た外部形態をもつ感覚子があった。 有翅昆虫では湿度・温度感覚子に内包される受容細胞の軸索は中大脳触角葉の特定の糸球体に終末することが既にわかっているので、マダラシミの中大脳について抗体染色法を用いて共焦点走査型レーザー顕微鏡観察を行い、その構造解析を行った。マダラシミの中大脳は有翅昆虫の場合とはかなり異なる構造からなり、近縁種のイシノミ同様に触角葉、機械感覚神経叢、腹側中大脳神経叢、Lobus Glomerulatusの4つの領域に分かれていた。触角葉、機械感覚神経叢、腹側中大脳神経叢は触角からの感覚入力を受け、Lobus Glomerulatusは口部からの感覚入力を受けていることが示唆された。マダラシミの触角葉は多数の糸球体構造から構成され、これらの糸球体群は5つのグループに分けることができた。そのうち糸球体グループ5はバナナ状の特徴的な形態の糸球体から構成されており、触角葉の背部に位置している。これに対応する糸球体はワモンゴキブリでは湿度情報や温度情報を処理することがわかっている。触角葉に同様の糸球体群が多数の有翅昆虫で進化的保存されており、湿度情報や温度情報を処理することが示唆されている。一方、Missbacha et al(2011)は、近縁種のイシノミでは腹側中大脳神経叢が温度・湿度情報の処理領域ではないかと推測しているが、明確な根拠は示されていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の2013年度計画では、原始昆虫である無翅目のマダラシミの触角には、通常の有翅昆虫に見られる湿度温度感覚子とよく似た形態的特徴のある感覚子があるかどうかを走査型電子顕微鏡観察によって確認することを計画していたが、予想とおり有翅昆虫の湿度・温度感覚子と外部形態がよく似た感覚子があることが確認できた。 Missbacha et al.(2011)はイシノミでは中大脳の腹側中大脳神経叢と呼ばれる部分で湿度・温度が処理されるとの推定を述べているが、我々は抗体染色法を使って中大脳を共焦点走査型レーザー顕微鏡で観察した結果では、マダラシミの中大脳の構造はイシノミの場合と比較的良く似ていたが、有翅昆虫であるワモンゴキブリで湿度温度感覚子に内包される受容細胞の軸索が終末する糸球体と似た形状のものが触角葉にあり、Missbacha et al.(2011)の推定とは異なることがわかった。 電気生理学的な同定と行動実験は2013年度には実施できなかったが、現在(2014年5月現在)行動実験と電気生理学的な実験を開始いている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では、電気生理学的な同定と行動実験も2013年度に実施することになっていたが、2013年度には実施できなかったので、この研究は2014年度に実施する。既に両方の実験は開始しており、2014年度中にその結果があきらかにできると考えている。2014年度以降の計画にあった「湿度感覚器の適刺激の判定実験」もその手法は既に確立しているので、感覚子の電気生理学的な同定実験とあわせて進めることでスピードアップを図る。この実験によって湿度受容器が化学受容器と機械受容器のどちらから進化してきたかを示すことができると考えている。 2014年度の計画のひとつである「湿度受容細胞の軸索投射について」も既に技術的には確立しているので、2014年度中に見通しがたち、2013年度の中大脳観察で明らかになっている触角葉の特定の糸球体に終末することを証明したい。
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