2013 Fiscal Year Research-status Report
非モデル生物を用いた異質倍数体形成を介した植物の種分化の分子機構解明
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25650129
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
楠見 淳子 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 講師 (20510522)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 種分化 / 異質倍数体 / RAD-seq / 共種分化 |
Research Abstract |
異質倍数体の遺伝的多様性とその種分化の遺伝的背景を解析する目的で、小笠原固有種イチジク属3種(うち一種が異質倍数体)、およびその近縁種の塩基多型解析を進めている。 本年度は、試料の採集とDNA抽出、RAD-seq法による塩基配列の多型解析を計画していた。まず、サンプル数が非常に限られていた小笠原固有種3種の採集については、絶滅危惧種であるオオヤマイチジクの分布域が非常に限られることから、解析に必要なサンプル数を揃えられるかどうかを当初懸念していたが、環境省、東京都の許可を得て、必要最低限の個体数を採集することができた。得られた試料からはすでにDNAの抽出を行っている。 次に、RAD-seq法を用いた塩基配列多型の解析については、この1年で様々な実験手法の改変が報告されていることもあり、本研究に適した手法を検討する段階に留まり、得られたサンプルの解析に着手することができなかった。しかしながら、RAD-seq法の手法の検証と採集許可申請を得るまでの時間を利用し、核のコード領域に新たに5遺伝子座のマーカーを開発し、近縁種を含めた分子系統学的解析を行った。先行研究で得られていた塩基配列データと合わせて系統樹の再構築、分岐年代の推定を行っところ、イヌビワを片親とする雑種形成を経ていると考えられるオオヤマイチジクの同一個体内には、約3,000万年前のFicus節の植物の分岐まで遡るイヌビワとは古い分岐年代をもつ配列と、イヌビワとの分岐年代が約900万年前となる配列を含んでいることが示された。 この結果は、これまでの先行研究を支持するものであり、異質倍数体内にある2系統の配列の分岐が比較的古いことを示している。今後RAD-seq法による網羅的な多型解析を行ううえで、2つの祖先系統の由来の相同配列を塩基配列の違いにより系統を判別して解析できる可能性を示しており、今後の解析の重要な指標となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本来の計画以上に小笠原固有種のサンプルを得ることができたが、その配列解析手法には改善を要する事が明らかとなった。 しかしながら、新たに開発した遺伝子マーカー(機能遺伝子領域を含む)の配列解析からより信頼性の高い系統樹の構築と分岐年代の推定を行うことができた。この結果から、小笠原固有種の祖先種2系統は比較的古い分岐年代をもつ可能性が高く、倍数体内の種内多型を解析するうえで、各祖先系統由来の遺伝子を塩基配列の違いから判別できる可能性が高いことが示された。小笠原は大陸からの植物の侵入の頻度が低いことを考えると、この系を利用することにより、小笠原産のイチジク属異質倍数体の進化は雑種形成による2つの系統のゲノムの混合により始まったと仮定することができ、多型情報が得られた際にも、比較的単純な進化モデルを仮定して解析できる可能性が高いことが示された。NGSを用いた異質倍数体の多型データの解析(遺伝子型の決定、変異データの統計的解析)に必要なプログラムの開発を進めていく上でも重要な指標となるデータが得られたといえる。 さらに、共生するコバチの近縁種のSSRマーカーを開発が進行したことで、このマーカーを用い、小笠原のイチジク属植物に共生するコバチの遺伝的多様性、集団構造についても解析する準備を整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今回試みているRAD-seq法は、現在も手法の改善が日進月歩で行われており、いくつかある手法の中でどの手法が本研究の解析目的に最も適切かを見極めるのが非常に難しい。RAD-seq法ではMiseqを使用するため、1回あたりの解析が比較的高価であり、解析を行うにあたって慎重にならざるを得ないが、今後はこれまでの解析結果をもとに手法を確立し、実験を進めて行こうと考えている。 特に、異質倍数体はゲノムサイズが大きいうえに相同な配列の中から2系統の祖先配列に由来する遺伝子が存在するため、それらを判別することが解析上最も困難な点であると考えられる。計画段階では、遺伝子の頻度情報を利用してこれらの相同配列の系統を判別できるのではないかと考えていたが、NGSを使った解析はリードあたりのエラー率が高く、座位によってリード数が非常に少なくなる場合もあることから、必ずしも頻度の情報だけでは遺伝子型を判別できない場合も多い。今回、第一世代のシーケンサーを用い、新たに核遺伝子座の配列を決定したことで、異質倍数体内(オオヤマイチジク)の変異量を推定することができた。これによりリード数から推定する遺伝子の頻度情報だけでなく、配列間の変異量によっても系統を判別できる可能性が示された。このデータを指標に大規模データの解析を進めて行く。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第一に、計画ではデータ解析に使用するコンピューターを当助成金を使用して購入する予定であったが、別経費で同等の製品を購入することができたので、物品費の支出が抑えられた。第二に、小笠原への調査について、研究協力者に同行していただく予定だったが、スケジュール調整ができず一人で調査を行うことになったため、旅費が計画の半額程度の支出となった。以上が次年度使用額が生じた理由である。 次年度は、Miseqの解析に必要な試薬を、当初計画の倍の解析量に相当する分を購入する。個体あたりの解析リード数を増やし多型データの正確性をあげ、遺伝子頻度の推定に十分なデータを得たいと考えている。また、膨大なデータ量を扱うことになるので、そのデータを保存するために、8TB以上の容量をもつハードディスクを購入する。 これらの購入額は本年度未使用の金額を次年度に繰り越すことで十分賄える額である。
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