2013 Fiscal Year Research-status Report
植物における有用物質生産のための葉緑体遺伝子発現「光スイッチ」
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25660008
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
小林 裕和 静岡県立大学, 大学院食品栄養環境科学研究院, 教授 (80170348)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 有用物質生産 / 葉緑体工学 / 遺伝子発現制御 / 光 / 転写 |
Research Abstract |
タンパク質性医薬品等の有用物質は、植物で生産することによりコストの低減が可能となる。その際、これら有用物質は植物にとって異物であり、その生育を阻害する場合が少なくない。したがって、植物体生育後、有用物質の生産を開始する 「光スイッチ」 を開発する。「光スイッチ」 として、本研究代表者が見いだした光化学系 (PS) レドックスによる葉緑体遺伝子発現制御系 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2010) を活用する。 ① 葉緑体一過性発現によるPSI反応中心タンパク質遺伝子 (psaA) 発現光制御の評価:光波長依存 psaA 転写抑制は、PSI と PSII の活性差スペクトルが顕著な 440~450 nm および 690~710 nm に起こり得る。そこで、これらの波長光 LED を照射し、各波長における psaA 転写産物量を real-time RT-PCR を用いて評価した。さらに、葉緑体における遺伝子発現モニター系を開発する目的で、Chroma-Glo Luciferase (Promega) の CBRluc (赤色) と CBG68luc (緑色) を用い、必要なコンストラクトの作製を試みた。 ② 葉緑体における RNAi あるいはレプレッサー系の作動確認:psaA 遺伝子発現の光制御は 「抑制」 に働くため、RNAi あるいは大腸菌 lac オペロンのレプレッサー系を活用し、光により目的遺伝子の発現を正に制御する。上記レポーター遺伝子を用い、これらのタンパク質コード領域の一部に対するアンチセンスを psaA プロモーター (PpsaA) の制御下に置く。これらのコンストラクトの作製を試みた。作動確認は、これらコンストラクトをパーティクルガンで植物葉に打ち込み、LED 照射によるレポーター遺伝子発現を評価する。このためのアッセイ系を開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
① 葉緑体一過性発現によるPSI反応中心タンパク質遺伝子 (psaA) 発現光制御の評価:光波長依存 psaA 転写抑制は、PSI および PSII の活性において、差スペクトルが顕著な 440~450 nm および 690~710 nm に効果が期待される。この光制御機構は、PSII から PSI への励起電子輸送を仲介するプラストキノン (PQ) のレドックス状態を反映する。710 nm 域の波長は、植物の光合成を介さない光受容体であるフィトクロム系の感知域である。遺伝子発現制御が PQ レドックス系かフィトクロム系かを区別するために、PQ を酸化あるいは還元状態にする阻害剤の効果を検討した。一方、レポーター遺伝子 CBRluc あるいは CBG68luc は、まず光波長非依存 psbA プロモーター (PpsbA) の制御下に置くことになるが (PpsbA-CBRlucあるいはPpsbA-CBG68luc)、これらのコンストラクトの大腸菌を用いた作製は困難を極めている。これらレポーター遺伝子は PpsbA 制御下で大腸菌でも発現するため、これが大腸菌の生育を阻害していると考えられる。 ② 葉緑体における RNAi あるいはレプレッサー系の作動確認:PpsbA-CBRluc あるいは PpsbA-CBG68luc の作製に先立ち、パーティクルガンにより植物細胞葉緑体に導入されたレポーター遺伝子の一過性発現を試みた。これらレポーター遺伝子を大腸菌 lac プロモーター (Plac) の制御下に置いたコンストラクトは葉緑体でも発現し得る。これらコンストラクトは作製できたため、これらにより一過性発現を行い、IVIS Lumina (Caliper LifeSciences製) により発光の観察に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
① 葉緑体形質転換による 「光スイッチ」 系の評価:本研究代表者の研究室において葉緑体形質転換系を樹立したタバコ品種 Xanthi (Plant Physiol., 2008) を研究対象とし、つぎにレタスへと研究を進展する。タバコ葉緑体形質転換コンストラクトは、pLD200-mALS [rbcL-Prrn-aadA-TpsbA-PpsbA-mALS-TpsbA-accD (rbcLとaccDは葉緑体ゲノムと相同組換えを起こすタバコ葉緑体 DNA の配列;他は不必要な相同組換えを防ぐためにシロイヌナズナに由来する配列;P,プロモーター;T,ターミネーター;rrn,rDNA;aadA,スペクチノマイシン耐性遺伝子)] を改変し、rbcL-Prrn-aadA-TpsbA-rbcL-一過性発現用コンストラクト-PpsbA-mALS-TpsbA-accD を作製する。この際、複数の TpsbA 配列がそれぞれ相同組換えを起こさないように、その働きを阻害しない塩基置換を入れる。このコンストラクトを用いたタバコ葉緑体形質転換系統に約 700 nm LED を照射し、ルシフェラーゼ活性を測定することにより、「光スイッチ」 系の有効性を確認する。 ② タンパク質性医薬品の生産への適用:食べる医薬品として、スギ花粉抗原 Cryj1 を取り上げ、これを葉緑体で発現させる。約700 nm LED 照射した際の Cryj1 の合成量を抗体により評価する。花粉症マウスに Cryj1 発現レタスを経口摂取し、花粉症改善効果を実証する。具体的には、スギ花粉由来 Cryj1 によりマウスを感作した後に、Cryj1 を経鼻的に投与し、静粛な実験室内で一定時間内におけるくしゃみおよび鼻掻き行動の回数を測定するとともに、血清中の Cryj1 特異的 IgE 量およびヒスタミン量を ELISA により検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
レポーター遺伝子 CBRluc あるいは CBG68luc は、まず光波長非依存psbAプロモーター (PpsbA) の制御下に置くことになるが (PpsbA-CBRlucあるいはPpsbA-CBG68luc)、これらのコンストラクトの大腸菌を用いた作製は困難を極めている。これらレポーター遺伝子は PpsbA 制御下で大腸菌でも発現するため、これが大腸菌の生育を阻害していると考えられる。このため、コンストラクト作製の一部を次年度に持ち越すこととなった。それに伴って、パーティクルガンによる一過性発現アッセイ系に必要な試薬等の支出も次年度に増大が見込まれた。 PpsbA-CBRluc あるいは PpsbA-CBG68luc の作製は、当初平滑末端 DNA 連結で進めたが、この効率は悪い。試験管内 DNA 相同組み換え系である In-Fusion (タカラバイオ) を活用する。また、CBRluc および CBG68luc のアッセイに必要な試薬類の購入に充てる。
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