2013 Fiscal Year Research-status Report
カンキツにおける単一花粉培養法を利用した自家不和合性関連遺伝子の探索
Project/Area Number |
25660029
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
國武 久登 宮崎大学, 農学部, 教授 (80289628)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | カンキツ / 自家不和合性 / 生殖生理 / アポトーシス / SOD / プロテオーム / マイクロマニピュレーター / 花粉培養 |
Research Abstract |
単一花粉培養法を利用した自家不和合評価システムの開発を行うために、マイクロマニピュレーターを使用して,カンキツ自家不和合性品種‘晩白柚’の単一花粉をピックアップし,1,000nLの微小培地で培養した.単一で培養した花粉は,集団で培養したものとほぼ同様に3時間以降に発芽が観察され,8時間後には約80%の花粉発芽率が得られた.18時間を超えると花粉管破裂が観察されたが,培養30時間後,花粉管長は長いものでは350μmを超えるものもあった.次に,本培養法を利用して,自己花柱粗抽出物を微小培地に添加したところ,不和合反応と考えられる花粉管破裂が観察された.この結果から単一培養においても和合/不和合反応の評価が可能であり,単一花粉培養法でも自家不和合を評価できることが明らかとなった. 次に,プロテオーム解析による単一花粉を利用した自家不和合性関連遺伝子の同定するために,不和合または和合反応が生じた‘晩白柚’花粉のみを1~100個ずつピックアップし,nano-LC-MSによる網羅的解析を行った.その結果、約100個の反応が生じた花粉から得られたスペクトルをデータベース(NCBI等)から機能を推測したところ,和合反応では二次代謝産物の生合成に関与するタンパク質が検出され,不和合反応では活性酸素種の分解を含む代謝およびストレス応答関連タンパク質が同定された.特に,ストレス応答関連タンパク質の中でもスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)が多くの割合を占めていた.SODは活性酸素種の分解に関与するタンパク質であり,活性酸素種の分解は自家不和合反応の後期に起こるとされている反応の一つであり興味深い結果と思われる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高等植物における雄性側自家不和合性は、柱頭や花柱組織内で起こる複合的な生化学現象のため、機序の解明は極めて困難である。我々は、カンキツにおいて、世界に先駆けて試験管内で和合/不和合の反応を再現できる花粉液体培養モデルシステムを開発し、反応が生じた花粉管からのプロテオーム解析技術を確立した。しかしながら,多数の花粉粒からの発現解析では詳細な挙動を確認することが不十分である。そこで、平成25年度は,まず,単一花粉培養法を利用した自家不和合評価システムの開発し,プロテオーム解析による単一花粉を利用した自家不和合性関連遺伝子の同定を行った. まず,自家不和合性品種‘晩白柚’の成熟花粉を材料として,マイクロマニュピィレーターによる微小培養液での単一花粉培養法を確立し,花柱粗抽出物の添加による和合/不和合現象の評価の可能性を検討した.さらに,反応している花粉のみの単離を行い,100個ほどの少数花粉からのnano-LC解析による発現タンパク質の解析を行った.その結果,単一花粉培養法において大量培養と類似した自家不和合様反応を視覚化することに成功した.また,自家不和合様,交雑和合様反応が起きていると考えられる花粉のみを100個程度ピックアップし,タンパク質の網羅的解析を行った.その結果,不必要なタンパク質におけるマスキングを防ぐことができ,より明確な自家不和合関連タンパク質を解析することができたと考えられる.イネ,シロイヌナズナおよびカンキツ3つのデータベースから得られたタンパク質を解析すると,自家不和合様反応において生物学的過程の分類では代謝,ストレス反応および刺激への反応に関与するタンパク質が多く推定された. 以上のことから,所期達成目標を順調に到達していると思われ,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の試験において,カンキツの液体花粉培養とnano-LC-MSによる網羅的解析を組み合わせることにより和合/不和合反応で変化するタンパク質をプロファイルすることができた.結果の概要でも示したように,3つのデータベースから得られたタンパク質を解析すると,自家不和合様反応において生物学的過程の分類では代謝,ストレス反応および刺激への反応に関与するタンパク質が多く推定された. 細胞死はネクローシスとアポトーシス(プログラム細胞死)の2つが存在する.ネクローシスは長期にわたって細胞死が起こるのに対し,プログラム細胞死は短時間で進行する細胞死である.RNaseに基づく自家不和合反応ではネクローシスが起きていると考えられている(Geitmann,1999;Geitmannら,2004;de Graaf ら,2006).しかし,Liuら(2007)やWang・Zhangら(2011)はカスケードシグナル経路によるプログラム細胞死が起きていることを報告している.これらの既報も参考にしながら,カンキツの自家不和合性現象を解明していく必要がある. 平成26年度は,花粉のサンプル数を減少させていくことで,花粉1個のプロテオーム解析技術の精度を高めていくと共に,nano-LCシステムにより同定した自家不和合性関連候補遺伝子(タンパク質)について、単一培養した花粉管について定量PCRを行うことで、遺伝子発現を確認し、候補遺伝子の検証を行う。特に,自家不和合性関連タンパク質として同定されたMnスーパーオキシドディスムターゼ,カタラーゼおよびmitogen-activated protein kinaseなどについてはその発現解析を早急に行う予定である.
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