2013 Fiscal Year Research-status Report
イネばか苗病菌の内生菌としての潜在能力とジベレリンを介した病原菌化
Project/Area Number |
25660035
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柘植 尚志 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30192644)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 植物病理学 / 菌類 / 植物 / 遺伝子 / 植物ホルモン |
Research Abstract |
研究を開始するに当たり、実験材料として、イネばか苗病菌(Fusarium fujikuroi)から産生ジベレリン(GA)分子種が異なる変異株を作出した。本菌のGA生合成には、7つの酵素遺伝子(ggs2、cps/ks、P450-4、P450-1、P450-2、desおよびP450-3)が関与する。ΔP450-1株(GA欠損)、ΔP450-2株(GA14)、Δdes株(GA1、GA4)、ΔP450-3株(GA7)のイネに対する病原性を検定したところ、Δdes株、ΔP450-3株が野生株よりも激しい徒長症状を引き起こした。この結果は、生合成経路の最終2段階を触媒する酵素des、P450-3の機能によって本菌の病原力が抑制されていることを示した。また、ばか苗病菌3菌株のGA遺伝子クラスター(約18 kb)の塩基配列を比較したところ、全長にわたり高度に保存されており、P450-3とdesの塩基配列も100%一致することが明らかとなった。 野生株と各変異株のGFP発現株の胞子をイネ種子に接種し、菌の感染行動を観察した。播種後9日目でも、野生株、全ての変異株は種子発芽部位の隣接部位にのみ局在し、本菌のイネ組織での増殖能力が低いことが明らかとなった。また、菌株間で増殖程度に顕著な差は認められず、GA生産の有無、産生GA分子種の違いが菌の増殖能力に顕著に影響しないことが示唆された。 各菌株胞子の汚染土壌に非宿主ダイズの種子を播種し、14日間育成後、子葉から菌を再分離した。その結果、全ての子葉から野生株、全ての変異株が再分離され、GA生産とは関係なく、本菌がダイズの種子発芽時に感染することが示された。 先に当研究室では、メロンつる割病菌(F. oxysporum f. sp. melonis)から病原性に不可欠な転写制御因子をコードするFOW2を同定した。ばか苗病菌からFOW2相同遺伝子(FfFOW2)を単離し、その変異株を作出したところ、変異株は培養時のGA生産性は保持していたが、イネに対して全く徒長症状を引き起こさないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GA3生合成の最終段階またはその前段階をそれぞれ触媒する酵素遺伝子P450-3、desの変異により病原力が増強すること、さらに病原力を抑制するこれら遺伝子の塩基配列が菌株間で100%一致することは、本菌の病原性進化を考える上で重大な発見と考える。一般に、植物病原菌では病原力が強いほど適応性が高いと考えられており、病原力を抑制する遺伝子が高度に保存されているという事実からも、本菌の病原性進化の特殊性が推察される。本菌は、一般的な病原菌に対するこれまでの認識とは異なる“不思議な病原菌”であり、そのGAを介した病原菌化現象は病原菌進化に関する新たなモデルを提供すると期待している。 また、これら変異株を用いて、本菌はイネ組織での増殖能力が低いこと、GA生産の有無、産生GA分子種の違いが菌の増殖能力に顕著に影響しないことを明らかにした。さらに、非宿主であるダイズにもその種子発芽時に感染することを見出した。これらの結果は、本菌が本来感染性の弱い内生菌であることを示し、内生菌がGAという植物が高感度で反応する病原力因子を獲得することによって病原菌化したことをさらに示唆した。 さらに、ばか苗病菌の病原性に不可欠な転写制御因子をコードするFfFOW2を単離したことによって、本菌の植物感染に関与する遺伝子の同定が現実的な課題となった。 以上のように、今年度は、研究計画を一部変更して、産生GA分子種が異なる変異株の解析を中心に研究を進めたが、当初の研究目的と合致する、むしろより核心に迫る内容であり、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ばか苗病菌では、病原力(徒長誘発能力)が低いことが適応性に重要である可能性を見出した。この可能性をさらに検証するために、他の菌株からもP450-3とdesの変異株を作出し、それらの病原力を検定する。また、保存菌株から他の菌株と比べ病原力がきわめて強い例外的な菌株を見出した。そこで、本菌株のGA生合成遺伝子クラスターの構造を解析するとともに、培養時、植物感染時のGA生産量、GA生合成遺伝子の転写レベルを他の菌株と比較し、強病原力の原因を探る。 ばか苗病菌が非宿主であるダイズにもその種子発芽時に感染することを確認した。そこで、イネ科(オオムギ)、ウリ科(メロン)、ナス科(トマト)、マメ科(エンドウ)作物にばか苗病菌野生株とGA生合成遺伝子変異株を接種し、本菌が本来宿主範囲の広い内生菌であることをさらに検証する。 本菌におけるGAを介した病原菌化を証明するために、無病徴トマトから分離されたGAを生産しない内生F. fuijikuroi菌株にGA生合成遺伝子クラスターを導入し、GA生産株の選抜を試みる。GA生合成に必要な7遺伝子を含む全長領域(約18 kb)をPCR増幅する条件を確立しており、そのPCR産物を内生F. fuijikuroi菌株導入する。本実験は挑戦的な課題であり、GA生産株が得られないことも想定されるが、GA生産株が得られた場合には、各種作物に接種し、経時的に病徴発現を観察するとともに、顕微鏡観察と再分離実験を組み合わせて、各種作物への侵入、定着能力を評価する。 ばか苗病菌の植物感染に不可欠な転写制御因子をコードするFfFOW2遺伝子を見出した。そこで、野生株とΔFfFOW2株のRNA-Seq解析により、FfFOW2によって制御される遺伝子、すなわち植物感染に直接関与する遺伝子の同定を試みる。 以上の研究結果を総合的に検討することによって、“ばか苗病菌は内生菌がGA生産性を獲得することによって病原菌化した”という実験仮説を検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述したように、ばか苗病菌の植物感染に不可欠な転写制御因子をコードするFfFOW2遺伝子を単離した。そこで、FfFOW2によって制御される遺伝子、すなわち植物感染に直接関与する遺伝子を同定するために、野生株とFfFOW2変異株のRNA-Seq解析を計画した。また、保存菌株から他の菌株と比べ病原力がきわめて強い菌株を見出した。本菌株と他の菌株とのGA生合成遺伝子クラスターの構造比較は興味深い課題である。野生株とFfFOW2変異株のRNA-Seq解析、強病原力菌株のGA生合成遺伝子クラスターの構造解析ともに、自ら実施するよりも迅速で確実、むしろ安価な受託分析を利用する予定であった。しかしながら、受託分析を依頼する前に、FfFOW2変異株、強病原力菌株についてより詳細に解析する必要があったため、今年度中に受託解析を発注することができず、次年度に使用することとした。 次年度使用額(622千円)と当初予定していた予算額(1,500千円)を合わせた2,122千円の使用計画は以下の通りである。 上述の受託分析に約1,000千円(RNA-Seq解析600千円、強病原力菌株のゲノムドラフト解析400千円)、学会参加旅費100千円、論文校閲・投稿料200千円、残り約800千円は遺伝子実験用試薬、培養用試薬、植物育成用資材、ガラス・プラスチック器具などの研究に使用する消耗品費として使用予定である。
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Research Products
(1 results)