2014 Fiscal Year Annual Research Report
森林の分断化が菌根菌の群集構造と遺伝的多様性に及ぼす影響の解明
Project/Area Number |
25660115
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奈良 一秀 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (60270899)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 土壌微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
人間活動により森林の減少と孤立化が世界各地で進行している。野生生物の重要な生息地である森林の分断化が、動物や植物の絶滅、遺伝的多様性の減少に繋がることはよく知られているものの、微生物に与える影響についてはほとんど分かっていない。樹木の根に共生する菌根菌は、樹木の養分吸収の大半を担い、その成長を支える重要な微生物群である。菌根菌の多様性減少や種組成変化は、樹木の成長に直接影響し、森林生態系全体の健全性にも影響する可能性がある。そこで本研究では、森林の断片化が菌根菌群集に及ぼす影響について基礎的知見を得ることを目的とする。研究対象としたのは、本州と北海道の高山帯に分布するハイマツである。ハイマツは、最終氷期以降の気温上昇とともに高山に退避した氷期遺存種である。長い年月、高山に隔離されてきたことから森林断片化のモデルケースとして選んだ。国内の代表的な山系で土壌サンプルを採取し、ハイマツの菌根からDNAを抽出した後、rDNAの塩基配列情報をもとに菌根菌の種を同定した。北アルプスや北海道といったハイマツが広く残存している場所では、ベニタケ科やイボタケ科、フウセンタケ科などの多様な菌種が見られたものの、北関東の小さな残存林分ではヌメリイグチ科の一部の菌種のみが優占しているなどの傾向が見られた。しかし、北アルプスの詳細な調査では、同じ地域でもハイマツの発達段階によって菌根菌種が大きく異なり、単生する小さなハイマツ個体ではヌメリイグチ科などが優占していた。これらの結果から、全国レベルの森林断片化の影響を見るにはさらに調査地を増やして包括的な知見を得る必要があると考えられる。また、本研究ではハイマツでしか確認されていない菌種も複数発見することができ、一部は菌株も単離することができた。このような菌種はハイマツの定着や保全に活用できる可能性があり、重要な成果といえる。
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