2013 Fiscal Year Research-status Report
森林昆虫の密度調節に関わる寄生蜂の繁殖戦略-見えない寄主をどう見分けるのか-
Project/Area Number |
25660118
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
肘井 直樹 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80202274)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 寄生蜂 / 寄主選択 / 探索行動 / 穿孔性昆虫 / 寄生捕食圧 |
Research Abstract |
視覚的に寄主を識別できない樹皮化昆虫寄生蜂においても、露出型寄主の寄生蜂と同様に、寄主サイズに依存した雌雄の産み分けが行なわれているのかどうかを明らかにするため、穿孔型寄主(樹皮下穿孔性甲虫の幼虫)の寄生蜂の代表種キタコマユバチを用いて、行動観察と操作実験を行なった。まず、予備調査において、野外環境を部分的に再現した樹皮と寄主からなる産卵空間(以下:産卵アリーナ)を製作し、ビデオカメラを用いて産卵行動を観察した。本年度はさらにデータを補強して詳細に解析を行ない、このシステムの有効性を検証した。産卵率(産卵数/産卵試行数)、次世代の休眠率、生存率、性比(雄比)を記録し、それぞれの項目に影響を与える主要因を、一般化線形混合モデルを用いて明らかにした。その結果、産卵アリーナにおいて、野外と同様の雌蜂による寄主探索・産卵行動が観察された。産卵率は、野外個体(野外で採集してアリーナに入れた個体)(53.1%)よりも飼育個体(アリーナで生まれた次世代個体)(75.3%)の方が有意に高く、野外個体では、産卵環境の変化が低い産卵率の一因であると考えられる。寄主がカミキリムシ幼虫かゾウムシ幼虫かの違いは産卵率に影響を与えることはなく、同程度の産卵率であった。しかし、次世代生存率は、カミキリムシ幼虫が寄主の場合は56.8%と、ゾウムシ幼虫を寄主とした場合の29.8%に比べて有意に高い値を示した。このことから、本飼育系での寄主サイズ操作に用いる寄主としては、カミキリムシ幼虫の方が適していることがわかった。次世代性比は、寄主生重の影響のみを受け、寄主生重が大きくなるにつれて、性比(雄比)は小さくなった。本飼育系の産卵アリーナは、雌蜂の寄主サイズ精査行動を妨げることなく、寄主サイズ依存的性比調節を可視的に観察できることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
十分な蜂の個体数が得られなかったため、予備調査を上回るデータは得られなかったものの、新たなビデオ画像データにより、親蜂の寄主探索・産卵行動の詳細と再現性が得られた。また、予備調査で得られたデータを詳細に再解析した結果、親蜂の寄主選択・性配分機構についての新たな知見が補強され、次年度の供試実験の精度と効率向上を図ることができる見通しが得られた。 さらに、キタコマユバチに生得的な寄主サイズの評価基準が存在するかどうかを明らかにするため、最初の産卵の際に寄主サイズに応じて雌雄どちらを配分するかを記録し、さらに寄主を生重によって3つのグループ(S-size:10-20 mg、M-size:30-50 mg、L-size:70-100 mg)に分け、雌蜂にS-sizeの寄主のみ、M-sizeの寄主のみ、もしくは、L-sizeの寄主のみを連続供試した場合、どのような次世代性配分を行うのかを産卵アリーナを用いて実験を行なった。これらの結果については、現在解析中である。次年度引き続いて同様の実験を行ない、さらに詳細な検証を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的を達成するために、今後2年間で、予備調査、25年度調査で得られたデータを精査し、探索範囲の大きさ、探索範囲内での寄主サイズ分布、探索範囲内での寄生蜂密度などを人為的に操作する実験を進めていく。とくに、26年度は、有効性が確認された本実験系(産卵アリーナ)を用いて、異なる寄主サイズグループに対しどのような性比配分を行なうのかを、それぞれ単独に与えた場合、サイズ分布を変化させた(すなわち、サイズグループの供試順序を変える)場合とで比較、検証する。また、雌蜂1頭あたりに与えた全寄主の生重から、変動係数(CV=(供試した全寄主の生重の標準偏差)/(供試した全寄主の生重の平均値))を求め、供試寄主の生重のばらつきの程度と次世代性比の関係を検討し、次世代性比に影響を与える主要因を明らかにする。またこれにより、性比変化の閾値が存在するのか、すなわち雌蜂が生得的に寄主サイズの判断基準を持っているのか、あるいは、Charnovの寄主サイズモデルに従った相対評価に基づく次世代性配分が、この穿孔型寄主の寄生蜂においても行なわれているのかどうかを明らかにしていく。この新しい実験系により、視覚によらない寄生蜂の寄主発見と相対的寄主サイズの識別方法、次世代の雌雄の産み分けの機構等を、これまで数多く行われてきた露出型寄主に対する寄生蜂のそれとの比較を通じて明らかにしたい。さらにこの成果にもとづき、森林における捕食寄生圧の定量的評価を行なうための道筋を探りたいと考えている。 なお、26年度からは、データ処理や解析に関して研究協力者の協力を得て成果の論文化を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度は適切な研究協力者が得られず、データ解析を含めた研究の遂行を、研究代表者のみで行なった。また、野外個体群を採集するための出張も、時間的に十分に行えなかった。このため、人件費と旅費においてほとんど支出がなく、次年度使用額が発生した。 26年度は、研究協力者に、各地での試料採集とデータ整理、解析等の協力を依頼するため、26年度分の人件費、旅費として申請した当初額(5万円,10万円)に、とくに人件費として次年度使用額(約47万円)を加算し、計画的に使用する予定である。
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